第5話:鉄の味、運営の悪意、そしてトラウマを刺激する自動販売機
4時間が経過した。あるいは4日かもしれない。 地下聖堂に太陽はなく、あるのは湿気と、人間が咀嚼すべきではないものをモルデカイが咀嚼するリズミカルな音だけだった。
不毛な『レベリング(単純作業)』の果てに、彼は新スキル**【鋼の顎】**をアンロックした。硬い物質を噛んでもダメージを受けない、という素晴らしい能力だ。
バリボリ。ゴクッ。
【システム:『変異ネズミの尻尾(古)』を摂取しました】 【体力 +1】 【腸内寄生虫耐性 +0.5%】
モルデカイは手の甲で口を拭い、死んだ魚のような目で虚空を見つめた。
「ワオ」彼は水平器として使えるほど平坦な声で言った。「感じるか? このアドレナリンの奔流を。体力が1上がったぞ。人生が変わった気分だ。俺は生まれ変わったんだ」
彼はラリーを見た。 骸骨は石を拾おうとしていたが、骨の指が滑り続けていた。もう20分もその動作を繰り返している。
「ラリー、やめろ。俺の指数関数的成長が生み出す壮大な雰囲気が台無しだ」
モルデカイは「観客席」の方を向き、宙に浮くシステムウィンドウを指差した。 だが今回、彼の表情は単に不機嫌なだけではなかった。 冷たく、分析的だった。
「本気か? これを見て楽しんでるのか?」
彼は青く輝くガラス面を叩いた。 それは偽物らしく、触れると実体のない波紋を広げた。
「お前らはそこにいて、人間工学に基づいた椅子に座って、男がネズミの尻尾を食うのを読んでるわけだ。だが……これは単なる娯楽じゃない。そうだろ?」
彼は地下聖堂を見回した。 石組みのありえない幾何学構造を見た。 ふざけたドロップアイテム――1492年のクーポン――を見た。
「これは単なるバグだらけのゲームじゃない」モルデカイは、ラリーに聞こえないほどの低い声で囁いた。「具体的すぎるんだ。この屈辱。この退屈さ。……妙な感覚がある」
彼は自分の体を何度も触った。 頬をつねり、現実かどうかを確認した。 ネタバレ:現実だった。 周囲の空間も、彼自身も、紛れもない現実だ。
その時、黒い思考が脳裏をよぎった。 前世の記憶のフラッシュバックだ。 電気工事士としての生活ではない。その『最期』の記憶だ。
雨。 トラックが彼と、あの二人を撥ねた正確な瞬間。
「……なぁ。すべてがおかしくないか? 俺の転生は、俺がしでかした『あれ』と関係があるんじゃないか?」 彼は闇に向かって問いかけた。
システムウィンドウが明滅した。 一瞬だけ、テキストがゲームのステータスではなくなった。 砂嵐に見えた。 あるいは、画面の向こうから彼を見つめる『目』のように。
「知ってるんだろ? だから俺はここにいる。これは異世界冒険譚じゃない。ここはテラリウム(飼育ケース)だ。俺は、棒でつつかれて噛みつくかどうか試されているトカゲってわけだ」
彼は笑ったが、そこにユーモアはなく、苦々しさだけがあった。
「面白いか? 俺にゴミを食わせ、中二病のポーズを取らせることが、あの夜の……罰として相応しいとでも?」
【システム通知】 【ムード検出:実存的恐怖】 【報酬:知恵 +1】 【管理者(Admin)からのメモ:考えすぎよ、スウィーティー(笑)。今はただネズミを殺しててね。】
モルデカイはその通知を凝視した。 その見下したようなトーン。 「スウィーティー」というふざけた呼び名。 パラノイアは、冷たく硬質な憎悪へと凝固した。 システムはすでに彼を知っている。あまりに詳しく。 具体的に言えば……あまりに「人間臭い」。
だが、我らが愛すべき偽りのネクロマンサーは、気にしないふりをした。 彼にはもっと重要なやるべきことがあったからだ。
「結構だ」モルデカイは毒づいた。「俺を安っぽいセットのオモチャ扱いしたいわけか? なら、お前のオモチャを壊してやるよ」
壁の穴から別のネズミが出てきた。脅威には見えない。ただ存在することに疲れているように見える。 モルデカイは独白すらしなかった。ただ手を上げた。「【シャドウボルト】」 スプラット(ベチャッ)。
【獲得経験値:15 XP】 【ドロップ:虫歯になったネズミの牙 ×1】
「虫歯か」モルデカイはそれを拾い上げてコメントした。「素晴らしい」 彼はそれを口に放り込んだ。
【システム:『虫歯になった牙』を摂取しました】 【顎強度 +2】 【特性獲得:荒い呼吸】
「見ろよ」モルデカイは両手を広げ、鼻から不快な喘鳴を響かせて呼吸してみせた。「成長だ。お前のゲームに乗ってやるよ。ただし、プレイの仕方は俺が決める」
彼はさらに10分間行進した。原動力は悪意と、ここがサディストによって作られた宇宙の牢獄であるという疑念だけだ。
終わりのない廊下は、ついに巨大な障害物によって遮られた。 巨大な扉だ。分厚い鉄の帯で補強された、頑丈なオーク材の扉。
【障害物を検出:第一の試練の門】 【解錠条件:『錆びた鉄の鍵』】 【ドロップ率:変異ネズミから 0.5%】
モルデカイは通知を凝視した。0.5%。 つまり戻れということだ。お利口なハムスターのように、回し車を走れということだ。
「そうか」こめかみに青筋を浮かべながら、モルデカイは囁いた。「単純作業をさせたいわけか。鍵を求めて這いつくばらせたいわけか」
【システム・ヒント:単純作業は人格を形成します! また、ユーザー xX_ShadowSlayer_Xx は『プレイヤースキル磨け(Git gud)』と提案しています。】
「ShadowSlayer……」モルデカイは呟いた。「お前はただの『読者』じゃないな? お前は看守の一人だ。……調べるべきことが山ほどありそうだ」
彼は扉に近づいた。 巨大な鉄の蝶番を見た。
「俺は電気工事士だ」モルデカイは恐ろしいほど穏やかな声で言った。「そして、設計図通りに動くのはもう止めた」
彼は下の蝶番を両手で掴んだ。 新しく得た**【顎強度 +2】**を発動させ、口を不自然なほど大きく開く。
ガリッ、バキッ。
吐き気を催す音がした。エナメル質と金属が擦れ合い、悲鳴を上げる。 だがモルデカイは止まらなかった。牢獄を食い破って脱出しようとする囚人のような怒りで、彼は咀嚼した。
【建造物へのクリティカルダメージを検出!】 【警告:ユーザーがマップの地形データ(Level Geometry)を摂取しています!】 【システム・パニック:待って! それはダメ! 台本にないわよ!】
「台本?」口いっぱいに鉄を含んだまま、モルデカイはモグモグと言った。「書き換えてるところだ」 ゴクン。
【体力 +2】 【防御力 +5】 【称号進行度:『世界を食らう者』 (0.01%)】
彼は二つ目の蝶番に噛みついた。バキンッ。 巨大な扉が呻き声を上げる。 蝶番がなければ、鍵など無意味だ。 重いオークの板が前に傾き、あとは重力が仕事をした。
ズドーン。
扉が内側に倒れた。モルデカイは唇についた鉄粉を拭った。「ノック、ノック」
彼は倒れた扉を踏み越え、その先に待つ拷問が何であろうと直面する覚悟を決めた。 だが、その先の部屋はダンジョンの空洞ではなかった。
そこは、清潔な白いセラミックタイルで覆われていた。 頭上では蛍光灯がジーと音を立てている――クソみたいな、点滅する蛍光灯だ。地球のオフィスビルで、かつて彼が交換して回ったのと同じやつだ。
壁には色褪せたポスターが貼ってある。 『安全第一:無災害記録 365日』
そして部屋の中央には、一台の自動販売機があった。
モルデカイは凍りついた。 その既視感は、どんなモンスターよりも激しく彼を打ちのめした。 照明。ポスター。 これは単なるランダム生成ではない。 彼の古い人生への嘲笑だ。彼の記憶から引きずり出された舞台装置だ。
「病的な野郎どもだ」 この宇宙規模のジョークの深さを悟り、モルデカイは囁いた。「やっぱり、この世界は何かがおかしい」
自動販売機が咆哮し、機械の脚で立ち上がった。
【ボス検出:コンビニエンスの擬態者:マジコア(Lv. 5)】
モルデカイはニヤリと笑った。幸福な笑みではない。隠し持ったナイフを取り出す囚人の笑みだ。
「自動販売機だと?」彼は**【鉄の胃袋】**を起動しながら笑った。「やっとか。ランチの時間だ」




