第15話:著作権侵害(パクリ)だらけのギルドと、不本意な『厨二病(エッジロード)の色香(リズ)』
「何かがおかしいの……」 王宮から離れる道すがら、パイラが自分の手を見つめて囁いた。いつものツンデレな勢いは消え失せ、その声には純粋な恐怖が混じっていた。
「わたくし、ずっと信じてきたの。世界を救うために魔王アルドマックスを倒す勇者様の伝説を……。側室になる運命だって受け入れていたわ。いつか彼の隣に立てるって信じて、心も体も捧げる覚悟だった。それがわたくしの役割なんだって。でも……」
彼女はモルデカイを見上げ、その瞳を震わせた。 「彼が話し始めた瞬間……あの『聖なる声』を聞いた瞬間、わたくしが感じたのは忠誠心じゃなかった。ただ……あのピカピカのブーツの上に吐き散らしたいっていう、猛烈な不快感だったの。おかしいわ。わたくしの心が、現実そのものに反旗を翻しているみたいで……」
(それって、憧れのアイドルに実際に会ってみたら性格がクズすぎて、一瞬でアンチに反転するっていうアレじゃないのか?) ネクロマンサーはそう思った。
モルデカイは帽子のつばを直し、ニヤリとするのを隠した。 (反乱じゃない。バグ修正だ)彼は思った。(俺の存在がゲームファイルを侵食してるんだろうな。俺と一緒に過ごせば過ごすほど、あいつらの『主人公補正スクリプト』が彼女への支配力を失っていく。俺は単なるイレギュラーじゃない。歩くジェイルブレイク(脱獄)ソフトなんだよ)
「……たぶん、あんたが大人になっただけだろ」モルデカイは滑らかに嘘をついた。「あるいは、『世界を救う』ことに、使用済みのお風呂の水を売る工程が含まれるべきじゃないって気づいただけだ。さあ、行くぞ。ニックの無能さに巻き込まれて死にたくないなら、こっちも正式な手続きが必要だ」
二人の前に巨大な建物がそびえ立っていた。冒険者ギルドだ。 そこには、今まで見た中で最も汎用的な名前が掲げられていた。
【銀龍の黄金の暁】
その名前を読んだ瞬間、モルデカイの胃がムカムカとした。 「銀龍の黄金の暁……」彼は毒を吐くような声で読み上げた。「ファンタジーの『カッコいい単語』を適当にミキサーにぶち込んだだけじゃないか。銀と金が同じタイトルの中で喧嘩してるぞ。美学的冒涜だ。いっそ『伝説の聖剣クリスタル・フェイト・オブ・ディスティニー』とでも名乗って終わりにしろ」
「い、いい名前じゃない! 荘厳で!」パイラは自信なさげに反論した。「……ほら、お金持ちそうだし! キラキラしてるし!」
「創造性の欠如だろ」モルデカイは訂正した。「行くぞ。ここからでもテンプレの臭いがプンプンしてやがる」
扉を押し開けた瞬間、安っぽいエールと男たちの汗の臭いが鼻を突いた。だが、それ以上にモルデカイを打ちのめしたのは、そこにいた「冒険者」たちの姿だった。
中央のテーブルでは、あるパーティが口論していた。 死んだ魚のような目をした緑色のジャージ姿の男が、無能なゴブリンを殺す計画を立てながら仲間に悪態をついている。その横では、青い髪の無能そうな女神(神官)がこぼれたワインを見て泣き喚き、小さな少女が杖を磨きながらハート型の目で「爆裂」と呟き、金髪の女騎士が罵倒されるのを悦んでいる。
(……ああ神様、お願いだ。あいつらに関わらせないでくれ。誰だか完璧に知ってるぞ。システム、本気か? コピペも大概にしろ。俺は自殺で死んだが、共感性羞恥(cringe)で死ぬのは御免だぞ)
【システム応答:物語の進行上、必要な配置です】
突然、扉が荒々しく開いた。全員の視線が、汚れたフルプレートに安っぽい兜を被った男に集まる。彼は誰とも目を合わせず、カウンターへ直進した。 「龍だ」男は掠れた声で言った。「……龍しか殺さん」
「あの、お客様」受付嬢がどもりながら言った。「下水道にゴブリンが大量発生してまして……」 「ゴブリンなど興味ない」男は唸った。「龍だ。デカい奴だ。奴らは俺の家族を殺した。だから死なねばならん」
近くのウェイトレスがうっとりとしていた。「きゃあ……なんてミステリアスなの! あの兜の下はきっとイケメンだわ!」
モルデカイはこめかみを揉んだ。(システム、この世界の独創性は死んだのか?)
さらに、暗い隅の席には、白髪で眼帯、義手、そしてなぜか銃を携えた少年が、吸血鬼のロリとバニーガールに囲まれて座っていた。彼は「×印」だけが書かれた地図を睨みつけている。 彼からは「エッジ(尖った)エネルギー」が放出されすぎて、テーブルが物理的に腐食し始めていた。
(……裏切られて魔物を食って髪が白くなったアイツまでいるのかよ!?) モルデカイは叫び出したかった。 (ここは異世界じゃない。Crunchyrollのトップ10作品をAIに読み込ませて『カッコよくしろ』って命じて書かせたファンフィクションだろ!)
【システム通知】 【クエスト発生:最初の任務】 【パーティを結成し、スライム・ダンジョンを攻略せよ】 【報酬:4,000 EXP / 厨二病スキル ×2】
彼はため息をついた。「……わかったよ、さっさと終わらせよう。他のメンバーとは目を合わせたくない」
パイラは掲示板の前で「スライム……ダンジョン……スライム……」と何事かブツブツ呟いている。 その隙に、モルデカイはメインカウンターへ向かった。そこにはギルドの看板娘がいた。
彼女をよく見ると、まさに「NPC受付嬢」の定義そのものだった。 可愛い制服、作り物の笑顔、茶色の髪。そして、相手の顔ではなく「財布の膨らみ」をスキャンする目。
「ギルドへようこそぉ!」彼女はさえずった。「登録料は銀貨5枚、パーティ結成には銀貨10枚。追加で50枚いただければ、プレミアム保険にご加入いただけますが?」
モルデカイは凍りついた。 彼は一銭も持っていない。誰も給料を払ってくれていないし、システムすら無一文だ。 おまけに、パイラの口座は凍結されている。 ……詰んだ。
「……あー」モルデカイは切り出した。「今、手元に流動資産がないんだ。最初のクエストが終わるまで支払いを待ってもらえないか?」
受付嬢の笑顔が、一瞬で消え去った。 瞳が冷たく凍りつく。「金がないなら、パーティも組めません。次の方!」 彼女はさっさと背を向け、金持ちそうなイケメン騎士に媚を売り始めた。
モルデカイは奥歯を噛み締めた。(マジかよ。官僚主義と資本主義に阻まれるっていうのか?)
【システム警告】 【障害を検出:守銭奴NPC】 【通常の魅力は失敗。ターゲットは強欲ゆえに一般的なカリスマに耐性があります。】 【解決策を算出中……】
【新スキル解放:厨二病の色香 / ランクF】
説明:論理を無視し、「隠された闇」をうっかり漏らすことで、相手に「私が支えてあげなきゃ」「彼は危険だけど魅力的」という感情フラグを強制的に立てる。
(……ふざけるな)モルデカイは青いウィンドウに向かって念話で毒づいた。(そんなこと、やるわけないだろ)
【システム:やるのです。さもなくば永遠に無一文のままパーティも組めません。】
モルデカイはため息をついた。選択肢はない。 彼はカウンターに寄りかかった。受付嬢がこちらをチラ見するのを待ち……そして「わざと」肘を滑らせた。
その動作で、ハンチング帽が頭から脱げ落ちた。 スローモーションのように帽子が落ちる。モルデカイの無造作な黒髪が流れ落ち、顔を縁取った。 彼は顔を上げ、今はオッドアイ(紫と青)となった瞳に光を捉えた。 表情は怒りではなく、スキルによって**「悲劇的で、何かに取り憑かれたような、深い孤独」**へと強制的に塗り替えられた。
彼は帽子に手を伸ばそうとして、途中で止めた。その手がわずかに震える(もちろん、完全な演技だ)。
「……許してくれ」 モルデカイは囁いた。声は1オクターブ下がり、掠れた、危険なトーンになる。 「影が……時々、重くなりすぎるんだ。忘れていたよ。この世界では、すべてに代償があるということを。……魂でさえもな」
【効果適用:厨二病の闇】 【ターゲットの状態:クリティカル・ヒット!!!!!】
受付嬢のコインを数える手が止まった。ペンを落とした。 彼女はこの一文無しの電気工事士の中に、**『虐げられた闇の皇子』**を見た。
彼女の瞳孔が開き、顔が赤く染まる。 (この人……お金がないのは、世界の重荷を背負っているからなのね!)彼女は論理を完全に無視して自分を納得させた。(なんて……壊れてるの! 私が……私が助けてあげなきゃ!)
「……あ、あのっ!」彼女は震える手で登録用紙をカウンターに差し出した。 「あ、あのね! 今日は……その、特別キャンペーンなの! 『シャドウ・ディスカウント』よ! 無料! だから……ここにサインして! それから、いつかあなたの悲劇的な過去を聞かせてね、いい……?」
モルデカイは用紙をひったくり、帽子を被り直し、「パーティ名:ロジック」と記入した。 「……助かる」彼は地声に戻って言った。「スライム・ダンジョンのクエストを受ける。行くぞ」
「あ、でもあそこは結構危な――あ」彼女が言い終える前に、モルデカイはパイラを掴んで足早に立ち去った。効果が切れる前に。
出口に向かう間、パイラは震えていた。 バキッ。 彼女のブーツの下の石畳に、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。 ツインテールから、純粋な熱を帯びた赤いオーラが放たれている。
「あの女……」パイラが歯を食いしばって唸った。「なんであんな目であなたを見てたの? なんで……なんであんな『色目』を使ったのよ!? わたくしじゃ……わたくしじゃ不服だって言うの!?!?」
モルデカイは壊れた床を横目で見た。「戦術的な交渉だ。……なんだ、嫉妬か?」
おっと。 モルデカイは、ツンデレに対して言ってはいけない最悪の言葉を口にしてしまった。
彼女の赤いツインテールが、ヘリコプターのプロペラのように回転し始めた。
「し、嫉妬ぉ!?」パイラは悲鳴を上げ、顔を原子レベルまで真っ赤にした。「わたくしが!? あの凡庸な受付嬢に!? バカ言わないで! わたくしは王女よ! ただ……ただ、下僕がその辺のスタッフを誘惑して回るなんて不謹慎だと思っただけ! あなたに説明なんて求めてないわ! これっぽっちもね!」
ドガッ! 彼女の踵の下で、また別の石畳が粉々に砕け散った。 「でも、次やったらこの建物を焼き払ってあげるわ! 純粋に外交的な理由でね!」
「……わかったよ」モルデカイは扉を開けた。「さあ行くぞ。仕事だ」
ギルドの連中は、それぞれの「自分語り(プロット)」に夢中で、床が揺れ、砕けていることなど誰も気づかなかった。
「せめて、どこに行くか教えなさいよ! 下水道なんて嫌よ、不潔だわ!」パイラは腕を組んで言った。
「スライム・ダンジョンだ。行くぞ」彼は短く答えた。
【上位次元からのフィードバック】
Cringe_Lord_Supreme: 「キターーー!『魂でさえもな』!? 物理的に身悶えしたわ。今まで聞いた中で一番の厨二病セリフ。スキル『エッジロード・リズ』、作中最強確定だろ。」
Economy_Stonks: 「厨二病のフリをして金を浮かせる……。それはもはや魔法じゃなくて『高度なバーター交渉術』だ。リスペクト。」
Pyra_Fan_No1: 「石畳が粉々だ!! パイラの嫉妬オーラ、すでに魔王級じゃないか? 早くダンジョンでその怒りを爆発させてくれ! 」
NTR_Hater: 「受付嬢の落ち方が早すぎるwww『私が支えてあげなきゃ』フラグとか、ダメ男好きの典型じゃねーか。モルデカイ、罪な男だぜ。」
Lore_Master: 「背景にカズマ一行とゴブスレとハジメがいるんだがwww システムさん、パクリの詰め合わせセットすぎませんかね? スライム・ダンジョンが普通の場所だとは思えなくなってきた。」
Rhia_Reader: 早くもメンバーが揃ってきましたね。次は誰が加わるのでしょうか? もしかして、24時間泣き続けるようなあの『駄女神』もどきが……?
モルデカイは瞬きでウィンドウを消した。 (次は誰かって? ……おそらく、24時間365日泣き喚くような奴だろうさ)
前方の不気味な森の中に、スライム・ダンジョンの入り口が口を開けていた。




