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第14話:メンタルケア(物理)、著作権への怒り、そして中二病の経済学

モルデカイは王宮の外へ、パイラを猛スピードで引きずり出していた。正確に言えば、彼が引きずっていたのは**『ゾンビ』**だった。パイラは言葉を発さず、外界に反応もせず、ただ魂が抜けた抜け殻のようになっていた。


(やっと『蚊の羽音』が止まったな)モルデカイは心の中で独りごちた。


彼は自分を通した衛兵と再会した。 一言も発さず、モルデカイはただ**『サムズアップ(b)』**を送った。「全部うまくいったぜ」という無言の合図だ。衛兵は引きつった顔で頷き返した。


その後、モルデカイとパイロエッタは別の通りへと移動した。そこは、勇者たちの関連グッズを売る商人たちで溢れかえっていた。 モルデカイが気づいた最もおぞましい事実は、どんな「貧しい」屋台でさえ、あいつらの顔がプリントされた何かを売っているということだった。


(ここはファンタジー世界か? それとも転生したオタクたちのためのコミケ会場か?)


彼にできるのは無視することだけだったが、目に入る光景はどれもこれも反吐が出そうだった。 あまりに多くの人々が、『聖女ルーシーのお風呂の水』や『ニック様のプラスチック製アクションフィギュア』といった、使い道のないゴミを買い漁っていた。中には、最後の在庫を巡って殴り合いの喧嘩をしている者さえいた。


(……ああ。結局、ここは地球と大差ないな。バカはどこにでもいる) 彼はため息をつき、パイロエッタに視線を移した。


彼はまだ彼女の手を握っていたが、彼女はそれに気づいている様子すらなかった。 彼女は地面を見つめたまま、微動だにしない。本来の彼女なら、理由もなく男に触れられれば殺しにかかってくるはずだ。そう考え、我らが愛すべきネクロマンサーは、素早く彼女の手を離した。


すると、彼女の頭上にシステム通知が現れた。モルデカイは苛立ちながらそれを読んだ。


【システム通知:コンパニオンの士気が0以下です。元気づけてあげてください。】 【報酬:絆レベル +1】


(あ? 俺の心の平安を乱せってのか?)モルデカイはシステムに返信した。


【システム警告:放置した場合、コンパニオンは自殺による『キャラ削除』を選択する可能性があります。早急な対応を推奨します。】


(おい、冗談だろ? こいつのメンタルケアまで俺の仕事かよ? 俺のメンタルは誰がケアしてくれるんだよ!?)


画面がより危険な色で明滅した。パイロエッタの体が小さく震え、一滴の涙が地面に落ちた。


【自殺による死亡:切迫イミネント


「最高だな」モルデカイは白目を剥いた。「わざわざここまで連れてくるのにリソースを割いて、あの騒音にも耐えてきたんだ。それを、ヘアジェルを塗りたくった男に振られたくらいでキャラリセ(キャラクターリセット)しようだって? 非効率にも程がある」


彼女を抱きしめるつもりもなければ、「自分を信じろ!」なんていう少年漫画のゴミみたいな熱血台詞を吐くつもりもなかった。彼は大人だ。そして大人は、**『経済的なロジック』**で問題を解決する。


モルデカイは、ある特に悪趣味な屋台の前で唐突に足を止めた。ニックの頭の形をした帽子を被った歯抜けの商人が、満面の笑みで彼を迎えた。 「へっへっ、そこの旦那! 『魔王の呪い人形』はどうだい? それとも聖女ルーシー様公認の『添い寝枕』かい?」


モルデカイは商品を無視し、カウンターの裏に掲げられた手書きの看板を凝視した。 『近日発売:悲劇の王女・メモリアルコレクション。予約受付中!』


(……は? 何だこれ……。もうパイロエッタのことを嗅ぎつけてやがるのか?)


モルデカイはパイラの肩を掴んだ。優しい触れ方ではない。故障したモデムを強制リセットしようとする技術者の、あの力強い掴み方だ。彼は彼女の体を回転させ、看板を直視させた。 本当ならビンタの一発でも食らわせてやりたいところだったが、彼には一応「紳士」の魂が残っていた。


「パイロエッタ」モルデカイは平坦で冷たい声で言った。「読め」


パイラは虚ろな目で、ゆっくりと焦点を合わせた。「ひ……げきの……王女……?」彼女は囁いた。


「その通りだ」モルデカイは、賃貸契約の内容を淡々と説明するように続けた。「あいつらを見ろ。何も考えずにゴミを買う消費者の群れだ。もしお前が今ここで命を絶てば、どうなるかわかるか?」


パイラは力なく首を振った。


「ニックは泣かない」モルデカイは解説した。「ニックはお前が『自分のために犠牲になった』と言いふらすだろう。ルーシーはお前の追悼ティッシュを発売する。そしてこの商人は? お前の死に顔がプリントされたTシャツを、銀貨10枚で売り捌くことになる」


モルデカイは彼女の耳元に顔を寄せ、この上なく残酷で、そして効果的な真実を囁いた。


「もし今日、バカ一人のために人生を投げ出せば、お前はただの**『商品』**になる。死んですら、あいつらのチャンネルの無料コンテンツとして消費されるだけだ。……自分の墓石にポーションブランドのスポンサーロゴが入ってもいいのか?」


パイラの瞳の奥で、何かがカチリと音を立てた。 自分の棺桶にサインをするニックの姿。自分の涙を瓶に詰めて売るルーシーの姿。 瞳から虚無が消え、火花が宿った。それはやがて、猛烈な炎へと変わった。


【士気更新中……】 【うつ状態:解消】 【新状態異常:著作権への怒り(コピーライト・レイジ)】


「嫌……」パイラは唸るように言った。拳を強く握りしめ、指の関節が白くなる。「嫌よ! あいつらに……わたくしの肖像権を勝手に使わせるもんですか!」


「その意気だ」モルデカイは手を離した。「あいつらへの最大の嫌がらせは、生き延びて『競合他社』になってやることだ」


彼は混乱している商人に声をかけた。「おい、お前。ここに何か壊せるものはあるか?」


「え? あ、ああ……。出来の悪かったニック様の『特製記念プレート』なら山ほどあるが……」 「全部買う」モルデカイは断定した。


パイロエッタは目を見開いた。「カイトヤマ? 何? どういうこと?」


商人の目が輝いた。(カネだ! カネカネカネカネ!)彼の顔にはそれだけが書いてあった。(こんな売れ残りのゴミを全部買うなんて、なんてバカな客だ!)


しかし、モルデカイが交渉のために口を開こうとした瞬間、システムが介入した。視界が紫色に染まり、どこからともなく冷たい風が吹いた。


【パッシブスキル発動:悪意ある厨二病マリシャス・エッジロード】 【効果:厨二病全開の口調を強制。新規効果:意志の弱いターゲットへの魅了率 +500%】


モルデカイの声が1オクターブ下がった。彼は商人を見ず、その背後にある深淵を見つめるような目をした。彼はニックの笑顔が描かれたプレートを一枚手に取った。


価格コストは……?」モルデカイは掠れた声で言った。瞳には紫色の光が宿っている。「貴様はコインの話をする。……だが、磁器に描かれた『嘘』のコストがどれほどのものか分かっているのか? この微笑みは……牢獄だ。絶望の味を忘れたこの世界の、腐りきった魂を隠すための脆弱な仮面よ」


彼は首を傾け、髪の影で目を覆った。「これらの皿は……単なる商品ではない。**『偽りの希望の欠片』**だ。そしてこれらは叫んでいる。……土から生まれた己の姿へと還ることを切望し、嗚咽を漏らしているのだ」


【デバフ適用:テンプレ酔い(自己)】 【効果:偏頭痛】 (ああ神様)モルデカイは吐き気を感じながら思った。(皿を『希望の欠片』なんて呼んじまった。今すぐ俺を殺してくれ)


だが、商人は笑わなかった。彼は口をあんぐりと開け、感動で目を潤ませた。「すげぇ……」商人は自分の胸を掴んで囁いた。「今のは……マジでエモい。あんたの言う通りだ。この皿は……俺の魂を縛る鎖だったんだ! 俺に『闇』を教えてくれてありがとう、マスター!」


【魅了成功!】


商人はプレートが入った箱ごとモルデカイに押し付けた。「持っていってくれ! 全部だ! 存在という苦痛から解放してやってくれ! 金はいらねぇ、ダークロード様! ただ、壊してくれ!」


「効率的だな」モルデカイは即座にキャラを捨てて呟いた。


彼は一枚の皿をパイラの手に押し付けた。「ショック療法だ。あいつのツラを叩き割れ」


パイラは皿を見た。ニックのプラスチックのような笑顔を見た。 彼女は王女らしからぬ叫び声を上げ、皿を地面に叩きつけた。


ガシャン!


皿は粉々に砕け散った。


「次だ」モルデカイは無料でもらった箱から別の皿を渡した。ガシャン! 「次だ」 ガシャン!


10枚ほど割り終えた頃には、パイラは肩で息をしていたが、頬には赤みが戻っていた。周囲の人々がこちらを見ていたが、モルデカイは気にしなかった。彼は「自殺」を「器物損壊」へと変換することに成功したのだ。純然たる改善である。


彼女は、まるで誰かを処刑しているかのような邪悪な笑みさえ浮かべていた。


周囲を見渡しても、ニックのグッズを叩き割る狂った少女に注目する者は少なかった。誰もが「使用済みのお風呂の水」を買って心の空虚を埋めるのに忙しかったからだ。商人は魅了されたまま、うっとりとその光景を見つめていた。


【システム通知】 【クエスト完了:王女を元気づける】 【手法:強引な資本主義ロジック】 【報酬:絆レベル +1(現在ステータス:共犯者)】


「気分は良くなったか?」モルデカイは手の粉を払いながら尋ねた。


「ええ……」パイラは背筋を伸ばし、ツインテールを鋭く跳ね上げた。「最高に侮辱された気分だわ。そして猛烈に腹が立っている。……皿よりもっとデカいものを燃やせる場所に連れて行きなさい」


「冒険者ギルドだ。そのあとランダムダンジョンへ行く」モルデカイはインベントリから取り出した帽子を被り直し、下層地区へと向かった。「登録を済ませる。それから……下水道に行くぞ」


「下水道ぉ!?」パイラが不満げに叫び、彼の長い歩幅についていくために小走りで追いかけてきた。「なんて無礼な(インソレント)! わたくしは貴族よ! 泥の中を歩くなんてありえないわ、黄金のホールで食事をするのが当然でしょ!」


モルデカイは無視した。彼はわずかに微笑んでいた。静寂は去った。絶望したゾンビも去った。うるさくて、傲慢で、文句ばかりの「蚊」が戻ってきたのだ。 (……これで日常ノーマルに戻ったな) 彼は奇妙な安堵感を感じた。それはパイラが「大丈夫」だからではなく、システムが満足したからだ。システムの満足は、モルデカイにとっての平穏を意味する。


「それで、冒険者ギルドの場所はわかるんだろうな、パイロエッタ?」


「ふんっ!」彼女は腕を組み、鼻を鳴らした。「当然よ! 案内してあげるわ。でも勘違いしないでよね! 別にあなたに感謝してるわけじゃないんだから。貴族が平民を助けるのは義務よ。変な期待はしないでちょうだい!」


モルデカイは「当然よ」の後の言葉を聞くのをやめた。


パイロエッタが歩き出し、モルデカイがそれに続いた。 煌びやかで偽物に満ちた「勇者地区」を離れ、ギルドがあるスラム街の剥き出しの現実へと下っていく。モルデカイは空を見上げた。他の誰にとってもそれは快晴の午後だったが、モルデカイの目には青いテキストがスクロールしていた。


【上位次元からのフィードバック】

Cringe_Lord_Supreme: 「キターーー!『偽りの希望の欠片』!? 物理的に悶えたわ。今まで聞いた中で最高に厨二病してる。スキル『悪意ある厨二病』、作中最強格確定だろ。」


Economy_Stonks: 「中二病のフリをして商品をタダで手に入れるだと? それはもはや魔法じゃなくて『高度なバーター交渉』だろ。リスペクト。」


Pyra_Fan_No1: 「顔面を叩き割った!! 最高だ!! 怒りを燃やせ、王女様! グッズを燃やせ! 信者どもを燃やせ! 」


NTR_Hater: 「皿を割る前のあの表情……芸術的だった。もはや悲劇のヒロインじゃない、復讐に燃える元カノの目だ。キャラ開発:100/100。」


Lore_Master: 「次はギルドか? ついに『テンプレな受付嬢』が出てくるのか。モルデカイがどうやってギルドのテンプレを破壊するのか見ものだな。」


Rhia_Reader: 「初日で早くも3人のチームメンバーが集まりましたね。在庫管理の骸骨、転職希望のゴーレム、そして家出中の王女。次は誰でしょう? そしてモルデカイはどうやって彼らの悩みを『解決』していくのでしょうか?」


モルデカイは瞬きでウィンドウを消した。 「テンプレな受付嬢だと?」彼は怪しげな液体の水たまりを飛び越えながら呟いた。「……どうなるか見てろよ」


前方の風に吹かれて、冒険者ギルドの看板が不吉な音を立てて軋んでいた。


(ああ、Rhia。次のメンバーは、おそらく24時間365日泣き喚くような奴だろうさ)

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