第12話:レベル1の偽装、王宮の短絡(ショート)、そして『売られた王女』というテンプレ
王宮の衛兵は、床と同じワックスで磨き上げられたようなピカピカの格好をしていた。片手に黄金のハルバード、もう片手に魔法のタブレットを持っている。
「名前と用件を」彼は画面から目を離さず、抑揚のない声で言った。
パイラは背筋を伸ばした。フリルのドレスを整え、ツインテールを跳ね上げ、持ちうる限りの王族としての威厳を振り絞る。
「わたくしはパイロエッタ・フォン・セリルダ! セリルダ王国の第四王女ですわ!」彼女の声が響き渡る。「運命に従い、ニック様と聖女ルーシー様の勇者パーティに加わるために参りました!」
その声は、寝ようとしている時に耳元で鳴り響く蚊の羽音のようにモルデカイの鼓膜を刺激した。 衛兵の手が止まった。彼はゆっくりと顔を上げると、青いクリスタルで作られた片眼鏡を覗き込んだ。
ピッ。ピピッ。
スキャン完了。
「セリルダ……」衛兵はタブレットをスクロールしながら呟いた。「ああ、これか」 彼は鼻で笑った。 それは親切な笑いではない。役人が書類上のミスを見つけた時の、あの嫌な笑いだ。
「セリルダ王が、王国の食糧債務を返済するために売り払った『資産』のことか?」衛兵は冷笑した。「ステータスは……『側室待機』。納品の遅れ……3ヶ月か」
パイラが凍りついた。顔から血の気が引いていく。「え……?」彼女は囁いた。「売られた? 借金? 違うわ……父上は、世界を救うためにわたくしを送り出したのよ! これは高潔なクエストのはずよ!」
「ただの取引だよ、お嬢ちゃん」衛兵は爪楊枝を噛みながら言った。「あんたの親父さんは、あんたと引き換えに貿易ルートとマナポーション500箱を手に入れたんだ。あんたはVIPじゃない。延滞してる荷物だ」
パイラは叫びもしなかったし、言い返しもしなかった。 ただ足元のブーツを見つめ、握りしめた拳を激しく震わせていた。下唇を強く噛みすぎて、一滴の血が滲む。彼女は衛兵を見ていなかった。たった今、粉々に砕け散った「嘘」を見つめていた。
それを見ていたモルデカイの前に、例のウィンドウが現れる。
【システム・デバフ適用:テンプレ酔い(CLICHÉ NAUSEA)】 【トリガー:『毒親によって売られた、悲しき過去を持つ強い女性キャラ』】 【効果:激しい眼球の回転(呆れ)と、低予算アニメに対する憤りの発生】
(最高だな)モルデカイはこみ上げる不快感と共に思った。(ただのツンデレじゃなくて『悲劇の売られ王女』属性まで持ってたのか。回想シーンはスキップしていいか? まだ昼飯を食ってないんだ)
【システム通知:回想シーンはブロックされました。絆レベルを上げてください。】
(解説ありがとう。絶対やらないけどな)カイトは思った。
「通しなさいよ!」パイラが突然叫んだ。声は震えていたが、その瞳には湿った怒りの炎が宿っていた。「ニック様に会わせなさい! あの人ならわかってくれるわ! 勇者様だもの! 政治じゃなく、正義を重んじるはずよ!」
衛兵は彼女を完全に無視した。彼女はもう、彼の視界には入っていない。 彼の目には、彼女は「価値の低い資産」にしか映っていなかった。
衛兵は片眼鏡をモルデカイに向けた。
ピッ。ピピッ。
「で、お前は?」衛兵はハンチング帽の男を見て言った。「お前は貿易品にも見えないな。ただのゴミだ」
片眼鏡が光る。
【スキャン結果:カイトヤマ】 【クラス:魔導電気技師(平民)】 【レベル:1】
衛兵は爆笑した。他の衛兵たちが振り返るほどの、下品な笑い声だ。「レベル1? レベル1の魔導電気技師だと!?」衛兵は目尻の涙を拭った。「神々に誓って、一桁のレベルなんて……下水道のネズミ以来、見たことがないぞ! 平民、ここで何をしてる? チュートリアルゾーンと間違えたのか?」
モルデカイは微動だにせず立っていた。表情一つ変えない。
(レベル1か)彼は冷静に考えた。(いいぞ。偽装は完璧に機能している。ここの連中はどいつもこいつも救いようのない馬鹿だ)
「彼は……」パイラがどもりながら、防衛本能でモルデカイの前に踏み出した。「彼はわたくしの連れよ! わたくしの……荷物持ちよ! 奴隷よ! 荷物を運ばせてるの!」
衛兵は笑うのをやめ、冷たい目を向けた。「いいか、『お姫様』」彼は吐き捨てるように言った。「ここはオークヘイブンの王宮だ。今この瞬間も、勇者ニック様と聖女ルーシー様が数百万人のファンに向けて放送を行っている最中なんだ。あのお方たちのオーラだけで、こんなレベル1の羽虫は蒸発しちまうよ」
彼はハルバードで道を指した。「お前らは、あのお方たちと同じ空気を吸うことすら許されない低レベルなんだよ」彼の声はより攻撃的になる。「失せろ。5経験値(XP)に変えてやる前に。な」
門は閉ざされたままだ。パイラは打ちひしがれた様子で、モルデカイに助けを求めるような視線を送った。「カイトヤマ……わたくし……」
モルデカイは彼女を無視した。彼は衛兵を見ていない。門も見ていない。門の『横の壁』を見ていた。
**【魔力看破】**の瞳は、衛兵には見えないものを見ていた。 この宮殿の魔力配線は、目も当てられない惨状だった。
カメラ映りを良くするために「輝き」と「魔法効果」を盛りすぎて、回路が完全にオーバーロードしている。豪華な大理石の壁の裏では、太いマナケーブルがガムテープで適当に束ねられていた。防犯用照明の電圧は、定格の200%で稼働している。
この「勇者本部」は、今すぐ火を噴いてもおかしくない火災の危険地帯だった。
「非効率だ」モルデカイが囁いた。
彼はパイラを追い越し、一歩前に出た。帽子を直す。「おい、衛兵」声のトーンが1オクターブ下がる。
衛兵は苛立たしげに見下ろした。「まだいたのか、レベル1。死にたいのか?」
「いや」モルデカイは抑揚のない、退屈そうな声で言った。彼は手袋をはめた指で、門の塔の上にある微かに光るルーンの塊を指差した。「だが、お前は雇用保険を確認しておいたほうがいい」
「あ?」
「あの上にある照明装置だ」モルデカイは『テクニカルサポート』の口調に切り替えた。「ニックの髪を配信映えさせるために、ループで稼働させてるんだろ?」
「それがどうした?」衛兵が眉をひそめる。「ありゃ『神聖スポットライト』だ」
「門のセキュリティと同じ回路に繋がってるな」モルデカイは半分だけ嘘を混ぜた。「ここからでもマナ漏れが見える。周波数が共振し始めてるぞ。あと……3分もすれば、ニックがイントロでパワーアップした瞬間に……」
モルデカイは手で爆発のジェスチャーをした。「パァンだ。スポットライトは吹き飛び、ゲートはショートする。そして、数百万人の視聴者の前で『神聖配信』は真っ暗だ」
彼は衛兵の目を真っ向から見据えた。「想像してみろ。お前が『メンテナンス担当』を通さなかったせいで配信が台無しになった時の、ニックの顔をな」
衛兵の顔から血の気が引いた。彼は照明を見上げた。確かに、わずかにチラついている。「だ、だが、王宮魔導師は大丈夫だって……」
「王宮魔導師なんて、せいぜいレベル50程度の魔法使いだろ?」モルデカイは鼻で笑った。「あいつに交流(AC)マナと直流(DC)マナの電流の違いがわかるか? それとも、ヒューズボックスに『ファイアボール』でも叩き込むつもりか?」
モルデカイは、純度100%の自信を放ちながら一歩詰め寄った。
「俺がレベル1なのはな、ゴブリン退治なんかに経験値を無駄遣いしないからだ。あんたら『勇者様』が散らかしたゴミを片付けるために、すべてのポイントを使い切ってるんだよ。さて、このまま通してアース線を接地させるか。それともライブ配信をぶち壊した戦犯として歴史に名を残すか。選べよ」
衛兵は冷や汗を流した。そのロジックは完璧だった。そして、インフルエンサーであるニックを怒らせることへの恐怖は、規律を守ることへの誇りに打ち勝った。
「わ、わかった……」衛兵は照明とモルデカイを交互に見た。「電源を切らずに直せるんだろうな?」
「負荷をバイパスさせるだけだ」モルデカイはポケットから(おそらくラリーが渡した)ドライバーを取り出した。「だが、中庭のパネルにアクセスさせろ」
衛兵は歯を食いしばり、タブレットをタップした。ブゥン。 メインゲートの横にある小さな通用門がクリック音を立てて開いた。
「5分だ」衛兵が囁いた。「入って、直して、すぐ出ろ。あとその泣いてる女も連れてけ。観光客の気分が下がる」
モルデカイは帽子に触れた。「毎度あり」
彼は――まだ呆然と地面を見つめている――パイラの襟首を掴み、通用門の中へと引きずり込んだ。
宮殿の敷地内に入った瞬間、モルデカイは彼女を放した。辺りを見渡す。中庭は小道具やカメラ、そしてコーヒーを持って走り回るアシスタントたちで溢れかえっていた。
「レベル1か」モルデカイは自分にしか聞こえない声で呟き、恐ろしいニヤリ笑いを浮かべた。「弱点だと思われてるうちは、こいつがこの街で最高の『迷彩』になる」
【上位次元からのフィードバック! 読者継続率が10%向上しました!】
Simp4Pyra: 「うわあああ! 俺の王女様が! ジャガイモの袋みたいに売られたのかよ!? セリルダ王はゴミだ! モルデカイ、後でマジであの国を焼き払ってくれ、じゃないと読むのやめるぞ!」
xX_LogicLord_Xx: 「『王宮魔導師にACとDCの区別がつくか?』で腹筋崩壊したwww 電気工学の基礎で衛兵が完封されたぞ。オームの法則があればファイアボールなんていらねぇな。」
TrashTaste_Enjoyer: 「『テンプレ酔い』のデバフに気づいたやついる? システム側も悲劇の過去設定に飽きてて草。 彼女が崩壊してる横でモルデカイが白目剥いてるの、キャラがブレなさすぎて最高。」
NTR_Lover69: 「照明がチラついた時のニックの顔が見てぇわ。直接対決が待ちきれない。ニックのことだからパイラを『無給インターン』として雇おうとしそう。」
Rhia_Reader: 「ラリーは有能な助手ね。いいスキルセット持ってるわ。」
OoDarkNinjaoO: 「おいおい、こいつマジで事務手続き(事務職スキル)で勇者倒すつもりかよwww」
(ラリー、新しい計画があるぞ)
次はついに、配信中のニックかルーシーの目の前に現れるシーンでしょうか? それとも宮殿内部を破壊(修理)して回るのでしょうか? 次のステップを教えてください!




