第二話「猫」
暫く歩いていると遠くに何か動く影が見えた。私はだれか他の人ではないかと期待を胸に走り出す。その影はまるで私に気づいているかのようにその場から動かないようでどんどん距離が縮まっていく。すると影の正体が見えてくる。
「なんだ、猫か~」
影の正体は真っ黒な猫だった。人じゃないとわかり肩を落とす。
「なんだとはにゃんだ貴様」
自分以外の声が聞こえ、あたりを見渡すが猫以外誰もいない。
「おい!聞いているのか!?」
私はゆっくり声のする方に向き直る。猫と目が合う。
「そうだ、ワタシが話しているのだ」
「猫が喋った!!」
私はこれまでの事も含め奇々怪々な現象にキャパシティオーバーを起こしたのか気を失ってしまった。
気が付くとまた同じ青い空が目に入ってくる。ああ、さっきの猫は夢だったのかな、なんて思っていると頭の上から声が聞こえる。
「お、目が覚めたか」
声の方を向くと先程の黒猫が変わらず佇んでいた。
「……夢じゃなかったかぁ」
私は仰向けのまま天を仰ぐ。
「夢とは失礼な。この世界で初めての話すことができる相手だぞ」
「……貴方はこの世界の事知ってるの?」
猫はその言葉に答えるように話し始めた。この世界は時間が進まずずっと昼間であること。私以外の人間や生物には会ったことが無くそもそも存在しているかすらわからないこと。なぜ自分が猫なのに喋れるのかはわからなくて私同様に目が覚めたらこの世界にいてずっとさまよっていたらしい。
「それで?キミの名前は?」
私は今一度名前を思い出そうとする。しかし、どれだけ考えてもまるで靄がかかったように思い出すことができない。
「わからない。どうしても思い出せないの」
「そうか……まぁ思い出したら教えてくれ」
「貴方の名前は?教えてよ」
猫は暫く黙り込んだかと思うと首をかしげる。
「そう言われればワタシも名前が分らんな」
そのしぐさが何だかとても可笑しくて吹き出してしまう。
「アハハ!あなたもわからないんじゃない」
猫は少し気恥ずかしそうにそっぽを向く。
「でもこれじゃお互いなんて呼べばいいかわからないわね」
「それならキミが好きに呼び方を決めてくれ。それで私は構わないから」
急に言われると流石に戸惑いを隠せない。私は頭をひねってあだ名をひねり出そうとする。
「じゃあ、センセイってのはどう?」
「センセイ?なぜだ?」
「私よりこの世界に詳しくて色々教えてほしいから」
猫は少し考えると、まぁいいかと納得したようだった。センセイと私は再び歩き出した。先程までとは違い、自分以外に一緒にいてくれる存在がいるというのは何とも言えない心強さを感じることができる。
「そういえばここに来る途中で民家のようなものが1軒だけあったぞ」
センセイはふと思い出したようで私にそこに向かうか?と問いかけている様で、考えてみれば今までお店はいくつも見てきたが民家のようなものは1軒も見なかった。
「そうね、行ってみましょう」
そこに他の人がいればいいなと一縷の望みをかけてその民家に向かってみることにした。
「そういえばセンセイはどのくらいこの世界にいるの?」
私が目覚めてから数時間しか経っていないがセンセイは私より長い時間をここで過ごしているのだろうからつい気になってしまった。
「ふむ、正確な時間は夜が来ないからわからないがおおよそ3日くらいかな」
3日という答えを聞いて唖然とする。数時間でもこのわけのわからない世界に独りぼっちで気がおかしくなりそうだったのに3日も1人で過ごすなんて私には到底無理な話だ。
「よくまともでいられたわね。私ならおかしくなりそう」
「まぁ、自由気ままに好きに動いて好きに寝れたから案外悪くなかったぞ」
流石、猫だなぁ。




