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第一話「独り」

 目に入ってきたのは澄んだ青空だった。

自分が仰向けに寝転んでいることに気が付くまでに時間が掛かった。上半身を起こし地面に座りながら痛む頭を押さえつつ周囲を確認してみると、建物はまるで数十年数百年放置されたような、廃墟と呼ぶにふさわしい程ボロボロであり、人の気配が全くしなかった。どこを見てもそんな状態で自分の知っている世界とは別の世界に来てしまったような感覚になる。今度は自分に目を向けてみる。服装は白いワンピースを着ていて傍には麦わら帽子が落ちていた。改めて考えてみてもなぜ自分がここにいるのか、そもそもここはどこなのかを思い出すことが出来なかった。それどころか自分の名前や年齢なども一切思い出せなかった。そのことに気が付いたとき、背筋に冷たいものが走った。全く知らない土地である事だけは何故かわかるがそれ以外の情報は無く、自分が何者なのかもわからないというのは何とも言い難い、不安というか焦りというかよくわからない気分になってくる。私は居てもたってもいられなくなり麦わら帽子をかぶりスッと立ち上がって何処ともなく歩き出した。ひたすらに荒廃した街の中を、何をするわけでもなく歩き続けた。

 どれくらい歩き続けたのだろう。時計がどこにもないので正確な時間はわからないが体感で1時間程歩いただろうか。足が疲労で痛み始めた私はカフェであったと思われる建物の椅子に腰かけて足を休ませる。歩き続けて得られた情報は3つ。

 ①ここには人が一人もいない

 ②建物は荒廃しているがなぜか倒壊などはしないことが理解できる

 ③ずっと太陽の位置が変わらず時間も進んでいない

 体感一時間ほど歩いて誰一人として見つからなかったし、そもそも人が居たであろう痕跡すら発見できなかった。それなのにアパレルショップには服が綺麗なまま展示されているし、スーパーには賞味期限内の食品が並べられている。衣食住に困ることは無いと胸をなでおろしたが不気味である事には変わらない。特に食品に関しては出来るだけ手を付けないようにしようと思った。それから、不思議と建物は今にも崩れそうなほどボロボロなのに倒壊することは絶対にないと理解できる。私は建築士か何かだったのだろうか?なんて考えながらおかげで色々な建物に安心して入ることができ、探索は非常に捗った。そして一番不思議なのは目が覚めた時から太陽の位置が全く変わっていないことである。別に太陽の位置で時間が正確に把握できるとかの能力があるわけではないがこれだけ探索したのだから時間が進み太陽の位置が変わらないとおかしいことくらいさすがに理解できた。つまるところ、ここでは時間が進まないか、私の体感より非常に遅いということだ。なんとなく入ったカフェは電気がついておらず薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。しかし、一時間ほど歩いた後なのでのどが渇いたため、キッチンを覗いてみるとまるで淹れたてのようなコーヒーがコーヒーサーバーの中に入っていた。そのコーヒーはとてもおいしそうに見えたが人がいないこの空間から明らかに浮いていてとても飲む気にはなれなかった。ほかに何かないか見まわしてみると冷蔵庫が目に入った。冷蔵庫の中にはペットボトルの水があり、私は未開封であることを確認した上で口をつけた。キンキンに冷えた水が喉を通る度にえも言われぬ快感が体を支配するようで気がつけば500mlまるまる飲み干していた。再び椅子に腰掛けて一息入れつつ周りを見回す。見渡す限りの廃墟、その建物に絡みつくツタや生い茂った草しか目に入る情報は無く未だ自分の名前すら思い出せずにいることに少し焦りを感じ出す。その焦りに背中を押される形でカフェを後にしてまた歩き始める。先程より遠くに行けば何かあるかもしれない、自分の名前くらいは思い出せるかもしれない、そんな淡い期待を抱きながら遠くへ遠くへと足を進める。

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