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活字中毒症候群

作者: 夏凛

深夜テンションでササっと書き上げたものです

特に深い意味も、メッセージ性もありません

 小説を買いたい。

 その衝動は、突然やってきた。

 私は以前から読書が好きだったが、お金の節約のために、本は買うのではなく、図書館で借りるようにしていた。

 しかし今は、どうしても本を買いたい。なんでもいいから、本がほしい。

 欲に抗うことができず、ありったけのお金を持って、家を飛び出した。



 自転車を漕いで三十分、息も絶え絶えにたどり着いたのは、家から一番近い本屋さん。

 店に入ると、すぐに小説のコーナーへと向かう。そしてランダムに、手当たり次第に本を手に取る。そこに置いてあるのは、普段は好まないハードカバーのものばかりだったが、気にせずレジに持って行った。

 本を大量に詰め込んでもらった紙袋を、自転車のかごに無理やりねじ込む。本に傷がつくことも気にならず、ただ早く帰ることを考えて、ペダルを踏み込んだ。



 家に着くと早速、買った小説を本棚に並べてみた。空いていた隙間が徐々に埋まっていく様子は、見ていてとても心地よかった。失くしていたラストピースを埋めたときのような、あの快感が、何度も脳内を襲う。だけど——

「……まだ、足りない」

 もっと……っ、もっと本が必要だ!



 それから小説をたくさん買って、棚が埋まれば新しい本棚を買って、そこに本をどんどん並べていった。しかし、こんな量を読み切れるわけがなく、本はただ買って並べただけで、放置されていた。

 本をそこに置く度に、強い快感を得られる。しかし次の瞬間には、まだ本が欲しいと願い、本を買わなければ落ち着かなくなっている。

 朝から晩まで、本と本棚のことしか考えられない。

 この感覚は、きっと恋に似ている。



 四つ目の本棚が埋まりきったとき、心が満たされたような感覚があった。

 財布の中身も、通帳の残高も空になって、部屋の中は本棚ばかりで床の面積が減り、本のことに思考を囚われすぎて、食事も喉を通らない。

 そんな生活が——、本に尽くしてきた生活が、報われたような気がした。

 たまらず私は、床に膝をつく。流れ出した涙は止まらなくて、その理由が分からず、ただ笑っていた。

 今この瞬間、間違いなく私は、幸福の絶頂にいる。これ以上の幸せが訪れることはないだろう。

 棚の中から本が崩れ落ちる音が聞こえても、ハードカバーの角が頭に当たる鈍い音が聞こえても、幸福感は収まらなかった。

 小説に埋もれて死ぬことができるだなんて……! なんて幸せなことだろうか。私は本好きとして、最大限の幸せを享受している。

 しかし、願わくば……、本に殺されるのではなく、本と共に心中をしたかった。

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