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8話


(心臓の音、でっか)


かつてないくらいに心臓の音がうるさくなっていた。初めて告白された緊張故なのか…。


「あの日声をかけて、友達になってくれて嬉しかった。でもそれだけじゃ満足出来なくて、もっと仲良くなりたい…俺のことを好きになって欲しいって高望みするようになってた。一緒にいるうちに前より好きになって、だから急に避けられて目の前が真っ暗になった」


「…ごめん」


「それは、返事?」


「違う、突然避けてたことに対してだ。あの日俺を呼び出したの、高橋だったんだ」


彼女の名前が出た途端、葉山の周囲の空気の温度が一気に下がる。


「ああ、彼女か。何言われたの」


「俺と葉山は釣り合ってない。俺が葉山の株を下げてるって。あと俺のことを良く思ってない奴が一年どころか上級生にもいて、葉山は俺が何かされないよう牽制していて苦労してる。それに葉山は俺を引き立て役にしてるって悪く言われてるから、葉山のことを考えるならさっさと離れろって忠告された」


「それで、俺のために離れようって?外野が何言おうが関係無い。俺は桜井と一緒にいたいからいるんだよ。そもそも…俺と桜井のことを色々言ってるのはほんの一握りだ。例の高橋のグループが筆頭で、後はもう殆ど何も言ってこない。桜井が心配するほど、皆俺のこと気にしてないよ?寧ろ俺に執着されて同情されてるくらいだから」


「は?どういうことだ」


聞き捨てならないことばかりだったので詳しく追求する。


「高橋はわざと大袈裟に桜井に伝えたんだ。実際俺が桜井に手を出さないように牽制してるのは事実だし、桜井も気づいていただろ?そして桜井の罪悪感を煽って俺から離れるように仕向けたんだ。友達思いの桜井の性格を利用したんだよ…ったく、前に告白断った時『誰かと付き合うより桜井といる方が楽しい』って言ったの失敗だったな。恨むなら俺にすれば良いのに」


「お前そんなこと言って振ったのかよ」


「だって事実だし」


結局高橋は葉山のため、という大義名分を掲げて己のプライドが傷つけられた恨みを晴らそうとしただけだったのだ。真に受けて真剣に並んだ自分が馬鹿みたいだ、と肩をすくめる。



そして同情されている件については。


「俺って割とドライだと思われてるからさ、桜井に対してだけ態度が違いすぎるから分かる奴には分かるらしいよ。清水も俺が桜井に向ける視線で気づいたって。言わないようにお願いしたけどね」


「視線?」


「執着心に塗れたドロドロした視線。今にも襲いかかりそうだったみたいだよ?」


「みたいだよって他人事みたいに言うな。怖いわ」


無意識に距離を取ろうとするが、スッと右手首を掴まれた。一気に距離を詰められて整った葉山の方が至近距離にある。


「そろそろ返事、聞きたいな。俺に好きって言われて気持ち悪かったり、迷惑ならはっきり言って欲しい。すぐに諦めるのは難しいけど、迷惑は絶対かけないから」


「…気持ち悪くもないし、迷惑でもない」


遥の言葉に希望を見い出した葉山の表情がパァっと明るくなり笑った。そんなに嬉しそうな顔をされると、こっちも同じくらい嬉しくなってしまう。遥が告白される、と不安がっていたのもずっとくっついていたのも、あの日声をかけたのだって遥が好きで、距離を縮めたかったから。その事実にどうしようもなく胸が高鳴り、熱くなる。


独りよがりで葉山を避けた癖に、傷ついた彼の顔を見ると胸が痛み罪悪感で潰れそうになった。離れているたった数日だけで大事なものが欠けたような喪失感を味わった。


「俺…葉山のこと、好きなのかも…」


葉山の切れ長の目が大きく見開かれる。


「…本当?」


「自分の都合で葉山を避けてる時、苦しかったし葉山が笑ったり、照れてるの見ると可愛いって思うし、葉山が生徒会の集まりで昼や放課後いない時寂しいと思ったりするけど…これってす」


「好きだよ。桜井は俺のことが、ちゃんと好きだよ」


一言一句ハッキリ言い聞かせる葉山の顔は真剣そのもので、顔が整ってるせいか圧が凄い。瞬きせずにじっと黒い瞳で見つめられると葉山の言うことは全て正しいのだと、そう思ってしまう不思議な力を感じた。


「互いに好きってことは両思いだ」


葉山は心の底から嬉しそうに微笑んだ。甘やかに細められた瞳には遥が映っている。葉山にこんな風に見つめられるのは自分だけだと、独占欲のようなものが生まれてきた。


「桜井、俺と付き合って?」


「俺で良ければ、よろしくお願いします」


「桜井が良いんだよ。桜井以外いらない」


「発言が重いんだよ」


葉山の言動の端々から愛が重い男であることが垣間見える。独占欲も執着心も強そうだ。怖いと思う一方で、心地良いと感じてしまう遥も大概なのだろう。


「恋人って、何するんだ?」


「何処かに出かけたり?」


「普段からしてるだろ?」


「そっか、じゃあ…キス?」


「キス」


「「…」」


葉山の言葉を繰り返す遥。2人の間に流れる沈黙。先に動いたのは、やはり葉山の方だ。ゆっくりと彼の顔が近づいて来る。遥はそれが当然のように目を閉じて、己の唇に葉山の唇が重なるのを待っていた。



その後葉山は高橋を呼び出して話をつけてくれたらしい。内容までは教えたくれなかったが、あれだけ熱心に葉山に声をかけていた高橋が葉山を見ると顔を真っ青にして友人の影に隠れるようになったのだ。これは懇切丁寧にお願いしたのだろう、と察せられた。


葉山は普段はクールで落ち着いた雰囲気を出しているが、遥が絡むと優太曰く苛烈で執念深い一面が顔を出すようだ。どうやら早々に葉山が遥に向ける気持ちに気づいていた優太は、口止めをされていたと白状した。件の口拭き事件の時は目だけで圧をかけられ、あまりの迫力に葉山をアシストする発言をしたようだ。


「お前が葉山を避けてる時本当に大変だったんだぞ。何があったんだってしつこく聞いて来るし、知らんて言っても引き下がらねーし。あれが1週間続いたら俺心労で胃に穴が空いてたわ。普段からあいつ俺が遥の幼馴染って理由で嫉妬してたからな」


何て軽い口調で語る優太だが、目が死んでたので笑い事ではなかったようだ。詫びとして昼飯を奢る約束をした。


葉山と遥は晴れて付き合うことになったが、学校では普段と変わらないように過ごすつもりだった。しかし葉山の距離が以前より明らかに近くなったので、関係が変わったことに気づく奴は気づくらしい。何か言われるか、と心配していたが好意的に受け入れられて驚いた。


「これで夜道歩く時、気をつけなくて済むわ」


富永が冗談めかして話す内容に思わず葉山の方を見たが、彼は意味深に微笑むだけだった。恐ろしくて深くは聞けなかった。


遥の好きな奴は重いし嫉妬深いし執着心が強い。でも、彼が隣にいない日常はもう考えられなかった。


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