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5話

葉山は勧誘されたことがきっかけで生徒会に入り、優太は中学と同様バスケ部、遥はほぼ帰宅部のような文芸部に入った。各々それなりに忙しい学生生活を送っている。入学以来葉山の人気は衰えることを知らず、富永は勿論女子もどうにか接点を持ちたいと話しかけていた。彼は誰に対しても平等な態度を崩さず、特に女子に対しては殊更気を遣って接しているようだった。変に気を持たれなくない、というのは遥にも分かったが意味はあまりなかったようだ。現に入学して数ヶ月、葉山は頻繁に呼び出されている。その度にグッタリとした様子で戻って来て、それを慰めるのが遥の役割になっていた。


「お疲れ、今回も大変だった?」


「断ったら、何でダメなんだって泣き出して…」


うわ、と想像するだけで対応した葉山の心労を察してしまう。ちなみに相手は一度も話した事のない女子らしい。向こうだって断られるのが分かりきっているはずなのに、泣くことで罪悪感を植え付けようとしたのか。顔も知らないが相手は中々狡猾らしい。遥はお近づきになりたくないと心から思った。


「こっちもどうにか穏便に、傷つけないように努力はしてるんだけど。泣かれたり怒鳴られたりすると流石にね…」


「怒鳴るって、そんな奴いんの?」


葉山は相手の素性は決して明かさないし、失礼な言動をされても悪様に言いふらしたりしない。遥はそんな非常識な行動を取った女子に対し怒りを感じてしまう。


「まあ、自分に自信があると断られるとプライドを傷つけられたと思うんだろうね」


「思い通りにならないと逆ギレするような奴、誰からも好かれないと思うけどな」


「辛辣だね」


控えめに笑う葉山も遥と同意見なのだろう。遥と葉山は大体一緒にいるのでこの光景は日常の一コマとなっている。葉山はクラスメートと平等に仲が良く、遥の方も悪目立ちすると思いきや似たような雰囲気の奴と何だかんだと話をするようになった。ちなみに優太は週に3日は部活仲間と飯を食うことになったのでこの場に居ない。そして葉山と関わろうとしている富永も遥に関心を持ったようで、たまに話しかけて来る。


最初こそ「絞められる?」と身構えていたものの、拍子抜けするほど普通に接して来た。近寄りがたいのは見た目だけで、フランクで話しやすい奴だ。けど、遥が富永と話していると葉山の口数が減るのが気になっている。富永は


「桜井を俺らに取られそうで嫌なんだよ」


とよく分からないことを言いながら笑っていた。そんな富永の肩を思い切り葉山が叩き、「いって!」と肩を抑えながら痛がっていたのを思い出す。


(確かに葉山は俺にはちょっと距離が近い気がするけど、高校で初めて出来た友達だから特別枠に入ってるだけだろ)


ぼんやりとそんなことを考える遥の視線の先には当然葉山がいる。相変わらずの美形っぷりだ。難攻不落だと既に噂になっているのにクラスメートの女子達の視線は葉山に釘付けだ。すると何処かからシャッター音が聞こえて来る。音の発生源を探るとクラスで1番目立つ女子、確か高橋だったか。彼女がスマホを構えている。中庭はいつの間にか撮影スポットになっているが、慣れて仕舞えばさほど気にならない。


(堂々と盗撮かよ)


はー、とため息が漏れる。当の葉山は何も言わない、諦めてると言う方が合っている。


「告られたり写真撮られたり、本当大変だな」


「慣れてるから」


「それもすげぇな。昔からこんななのか?」


「まあね。俺は自分の何処がそんなに良いのか分からない。顔は一般的に見て良いんだろうけど、それ以外何もないよ」


葉山は自嘲気味に呟く。彼は時折自分を貶めるような言う。成績優秀で運動部顔負けに運動神経が良く、生徒会にスカウトされたハイスペックな癖に自己評価が低いのだ。恐らく彼の家庭環境が少なからず影響を与えているのだろう。遥は首を振って反論する。


「いやいや、葉山優しいし、話してて楽しいし落ち着くぞ。告って来た女子傷つけないように断り方一生懸命考えてるし」


散々な目に遭っても相手のことを考え、決して他言しない。それに遥を良く思ってない奴にそれとなく牽制してくれているのも知っている。嫌がらせの類もされていない。


「顔が良いのは揺るぎない事実だし、正直その辺のモデルじゃ太刀打ち出来ないくらいイケメンだと思う。それ以外にも、ムギに懐かれるし勉強分からない奴が聞きに来たら教えてやってるし、明らかにわざとぶつかって来た女子にも笑顔で謝るし…」


遥はGW葉山を家に呼んでムギと引き合わせた。人見知りする傾向のあるムギが一瞬で懐いて膝に乗った光景に思わず悔しさで唇を噛んだが、猫好きで猫に好かれる奴が「何もない」訳がないのである。葉山はムギにメロメロになり、猫吸いまでキメていた。褒めちぎる遥に葉山がある一言を放つ。


「俺、付き合うなら桜井が良いな」


油断していたところに爆弾発言を喰らい思い切り咳き込んだ。


「急に何言い出すんだ。冗談でも驚くわ」


この顔面偏差値がカンストしている男にそんなこと言われれば驚くに決まっている。しかし葉山はスーッと目を細め、意味深に笑う。


「冗談ね、まあ半分は冗談だけど。割と本気だよ。桜井といると居心地が良い。疲れたり神経を使うような相手と付き合っても上手くいかないからね。だから付き合うとしたら俺は桜井が良い」


「どっちだよ…まあ言いたいことは分からんでもないが。俺が良いとか物好きだな」


男だし顔立ちも平凡。癖っ毛にやや垂れ目な顔立ちのせいか舐められがちである。中性的と言えなくもないが、悲しいかな告白された経験は無い。


「物好き?そんなことない、桜井可愛いよ。まず垂れ目なところ、寝癖付いてるところ、笑いの沸点が低いところ、好きなものは最初に食べるところ、ムギと話してる時声がちょっと高くなるところ、困ってる人を放っておけないところ、あと」


「ちょっと黙ってくれ、後眼科に行け」


葉山は遥の可愛いところを語り出した。とんでもない羞恥プレイであり頬が熱を持ち始めた。これ以上耐え切れず無理矢理口を手で塞いだ。しかし掌にぬるっとした感触がしたので慌てて手を離す。全身にゾクゾクとした感覚が走る。


「おま…!」


「あはは、ごめんつい」


葉山は掌を舐めたのである。全く悪びれない謝罪を口にする葉山を睨むが動じない。真面目な顔してる癖にこういう悪戯を良く仕掛けてくるので困っていた。最初に口を拭いたのも今思えば悪戯だったのだろう。本当に嫌なら拒絶すれば良い。葉山は遥が本気で嫌がってると知ればもう何もしない。


しかし遥には「辞めろ」と強く言うことが出来ない。その理由を遥は良く分かっていない。理由に気付きたいような、気付きたく無いような複雑な気持ちである。


長々と話していたせいで弁当を食べ終わる頃には昼休みが終わる時間になっていた。


「次数学じゃん、早く戻らねぇと」


「そうだね、順番的に桜井当てられそうだし」


「あ、そうだった。やべ」


足早に中庭から去って行く遥達に鋭い視線を向けているものがいることに誰も気づかなかった。


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