#93
それから道場スタジオを出て、マチャのマンションに戻ったバニラたちは、食事の準備を始める。
本当なら一人ひとり交代の当番制だったのだが。
ダークレートはまだしもバニラとストロベリーがあまりにも不器用だったため、三人でやるように言ったからだった。
キッチンに立って食材を切るダークレートの横では、バニラがみそ汁を作り、ストロベリーが米を研いでいる。
「あーまた野菜ばっか!」
米をセットし終えたストロベリーがムッと表情をしかめる。
そんな彼女を一瞥し、ダークレートは包丁で野菜を切りながら答える。
「マチャが言ってたでしょ。食事は野菜中心にするようにって」
「ヤダヤダ、肉! 肉中心にしろ! なあバニラ、お前も肉のほうが好きだろ?」
ストロベリーが訊ねると、バニラは野菜中心でいいと返事をした。
するとストロベリーは、まるで敵軍に追い詰められた戦国武将のように咆哮する。
「なんだよ! この家にはあたし以外にまともな人間はいねーのかッ!? カカオ! カカオだって肉がいいだろ!? なあなあ!」
狭いキッチンで声を張り上げながら、彼女たちの傍にいたカカオを持ち上げて無理矢理に頷かせようとするストロベリー。
掲げられたカカオはプルプルと首を振って、ストロベリーの言葉を否定しようとした。
だが、ガッチリと顔を掴まれて首を動けないようにされている。
「安心しなよ。肉もちゃんとある。食事はバランスだって教えられたからね」
「マジか! ダークレートマジ天使! あたしの英雄、救世主、神さまだよ! って、やめろ! ナスをみそ汁に入れるな!」
ダークレートがストロベリーを無視して切り終えたナスを鍋に入れ、バニラが沸かした湯に味噌を溶かしていく。
そんな彼を押しのけて、鍋に入れられたナスを回収しようとするストロベリーに、バニラが近寄れないようにブロックした。
「どけバニラ! ナスが! このままではナスがみそ汁の具になってしまう!」
「いや、切り終えた時点で具になることは確定していただろう?」
「せめてジャガイモ! ワカメ! いやネギに変えろ! 今からでも間に合う!」
「お前はさっきから何を言ってるんだ? だからもうナスに決まってるんだって」
ナス以外の野菜なら我慢すると、ストロベリーは言い続けた。
そんな彼女に放り投げられたカカオをキャッチしたダークレートは、呆れてものが言えなくなっている。
「ただいま」
そこへマチャが帰って来る。
彼女が玄関からリビングルームに入って来ると、ストロベリーがキッチンから大声を出す。
「おう! 帰ったかマチャ! 待ってろ! 今あたしがメシ作ってるからな!」
「あんたは米しか研いでないのに、どうして自分が中心みたいな言い方してんだよ……」
ストロベリーの言葉に、苦言を口にしたダークレート。
彼女に抱かれていたカカオも、そんなストロベリーを見てため息をついていた。




