#92
――シャワーを浴び終え、トレーニングウェアから私服に着替え終えたストロベリーは、バニラと共にロッカールームにいた。
そして彼女は不機嫌そうな顔で、何度も同じ話を口にし続けている。
「なあ、最悪じゃね? これから毎日イジメられんだよ。ったく、ロッキーロードのバカが死ななきゃ楽に暮らせてたのに。マチャの家に来てからマジ最悪」
「だから、その問題の解決は簡単だろ。オレたちが早く強くなればいいんだ」
「そんないきなり人が変われるわけねぇじゃん。相変わらずバカだなぁ、アンタは」
ストロベリーが楽観的なことを言ったバニラに呆れていると、そこへストロベリーの次にシャワールームへと入ったダークレートが現れる。
一緒に汗を流したのであろう。
小熊のカカオがタオルに包まれて、ダークレートの胸で抱かれていた。
「来たか。じゃあ帰ろう」
「えッ!? アンタ……。まさか汗だくのままで帰るつもり?」
「……? そうだけど」
不思議そうにダークレートを見るバニラ。
そんな汗臭い彼を見て、ダークレートが声を張り上げる。
「シャワー浴びろバカッ!」
「クセェんだよ!」
ダークレートに続き、ストロベリーも怒鳴り始め、カカオも顔をしかめて吠えている。
そんな二人と一匹に迫られたバニラは、小首を傾げると彼女たちに言う。
「別に大丈夫だろ。こないだ風呂に入ったばっかだし」
「毎日入れバカッ!」
「クセェんだよ!」
その後、二人と一匹のあまりの剣幕に押されたバニラは、渋々ながらシャワールームへと向かった。
自分の手や身体を鼻でかぎながら、そんなに臭うかと不可解そうだ。
そんなバニラの背中を眺めながらダークレートが大きくため息をつき、カカオも彼女と同じように「ガウゥ……」と息を吐く。
「あいつ……。せっかく環境がよくなったのに、風呂ぐらい入れっての……」
「なぁに~ダークレート~。あいつのことが気になっちゃってるわけ~」
卑猥な笑みを浮かべてダークレートに訊ねるストロベリー。
カカオはそんな彼女の顔を見て怪訝な顔をしている。
「別に……そんなんじゃ……」
「ハッハ~! なにちょっとからかっただけで照れてんだよ~。ひょっとしてあのバカのこと好きなったの?」
「だからそんなんじゃないって!」
「ムキなるところが怪しいね~。あんなネクラでトーヘンボクのなにがイイんだかあたしにはわからんけど。ま、応援してあげるよ」
否定しても相手を無視して自分の考えを言い続けるストロベリー。
ダークレートはそんな彼女に何を言っても無駄だと諦め、それ以上何かを口にするのを止めた。
それは、結局この赤毛の女の頭の中では、どんな説明をしても自分がバニラを好きだと変換されてしまうと思ったからだ。
「ホント、なんでもかんでも恋愛にもってくヤツはヤダねぇ。ねぇ、カカオ」
ダークレートはストロベリーがいようが気にせずに、カカオに愚痴を言った。
彼女の言葉を聞いたカカオは、「ホントホント」言いたそうに頷き、ガウガウと鳴き返すのだった。




