#86
――その後。
バニラを襲ったチゲはショッピングモールに連れてきていた部下を連れて撤退。
それは、モカと共にホワイト·リキッド一号店の面々が、バニラたちの救出に現れたからだった。
ベヒナに襲われたマチャのほうはジェラートが回収。
一人でショッピングモール内に隠れていたストロベリーと、マチャ、ダークレート三人に大した怪我はなく、バニラのほうもチゲに一方的にやられたものの、特に動けないほどの重傷は負わなかった。
「どう? 身体のほうは?」
シリアルとグラノーラを連れて、ジェラートはマチャを休ませている部屋へと来ていた。
ベットで横になっている彼女に怪我こそはないが、ラメルの死にかなりに打ちのめされているようだ。
「大丈夫です。少し休めば……」
「そう。じゃあ私たちは行くね。今後のことを考えないと」
部屋を出て行こうとするジェラートに続き、シリアルとグラノーラも後を追う。
そんな彼女たちの背中に、マチャが声を掛ける
「あの、ジェラートさん」
「うん? なに?」
「ありがとうございました……」
「いえいえ、どういたしまして。それじゃ、また顔出すからゆっくり休んでね」
振り返ってニッコリと微笑んだジェラートは、そのままシリアルとグラノーラ兄妹と共に部屋を出て行く。
そのまま廊下を進んでいくジェラートたち。
現在彼女たちがいるこの建物は、どうやらホワイト·リキッドではなく、人工島テイスト·アイランドのどこかにある貸ビルのようだ。
「それで、ショッピングモールにいた子たちはどれくらい生きてる?」
人気のない建物内を歩きながら、ジェラートがシリアルとグラノーラ兄妹に訊ねた。
その問いに、妹のシリアルのほうが答える。
「白髪の子のほうは結構やられてましたが、赤毛の子も黒髪の子も含めて全員無事です」
「二号店だけを狙った今回の襲撃……。相手はスパイシー·インクの幹部だったみたいだけど?」
二人の前を歩くジェラートが再び訊くと、今度は兄のグラノーラほうが返事をする。
「はい。ショッピングモールのほうはチゲという男で、マチャとラメルを襲ったのがベヒナという女幹部のようですが。どうやら社長であるレカースイラーの指示ではなく、二人の独断で動いていたようですね」
「どこで聞いたのさ。そんなこと?」
「捕えたベヒナが吐きました。あの女はどうします? もうこれ以上聞けそうなことはなさそうですが」
「うーん……。ま、とりあえず放っておいて適当に生かしといて、後で使えるかもだから」
ジェラートがそう返事をすると、今度は妹のシリアルが訊ねる。
「あ、あのジェラートさん……。もしかしたらこのまま全面戦争になるんですかね?」
「さあ? でも、とりあえずチゲって幹部のほうは始末しておいたほうがいいよね」
そう答えたジェラートは、他人行儀でいながらどこか弾んだ声を出していた。
そんな雇い主の背中を見ながら、シリアルとグラノーラはその身を震わせる。
何がそんなに嬉しいのか。
ウキウキするようなことなど何もないのにと。
「じゃあ、ご飯でも食べながらミーティングにしよっか? 皆を一号店に集めておいてね」




