#81
マチャは路地裏からスラム街へと入り込んだ。
銃で撃たれたラメルに肩を貸して逃げ続けるのは難しいが。
入り組んだスラム内なら、なんとか逃げ切れると彼女は考えたのだ。
そして、マチャの考えはそれだけではない。
彼女は知り合いの闇医者のところへ、ラメルを連れて行こうとしていた。
「はぁ……はぁ……」
元々二日酔い気味で顔色が悪かったラメルだったが。
今では血を流し続けたせいで、まるで化粧でもしたかのように青白くなっていた。
「しっかりしろラメル。そのくらいの怪我でだらしないぞ。もうすぐ着く……もうすぐ着くから」
「ハハハ、きっついな……マチャは……。こっちは撃たれてんだぜ……」
「いいから喋るな泣き言いうな! 大丈夫……大丈夫だ。無免許だが腕のいい医者を知ってる……。もう少し……もう少しだから」
「わかってるって……。お前と飲めなくなるのは……嫌だからなぁ……」
死人のような顔色だが。
ラメルは笑みを浮かべてみせる。
それが強がりだとマチャはわかっている。
(こいつはいつもそうだ……。仕事でも無茶ばかりして……)
走りながら表情が歪む。
死んでほしくない。
いや絶対に死なせない。
死なせてたまるかと、マチャは心臓が爆発しそうなほど苦しくなっていたが、それでもラメルを助けるために駆ける。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
二人の前に、警備服姿の部下たちを連れたベヒナが立ちはだかる。
その警備服のロゴでわかるが。
ベヒナの連れている者らは、スパイシー·インクの社員たちだ。
「見つけた」
「なんだよ!? なんでいきなり私たちを襲うんだよ!?」
「しらばっくれるな。お前だろ? 子供どもを使ってスパイシー·インクを襲わせてるの」
ベヒナの言葉に、マチャは表情を歪めた。
彼女は思う。
自分が首謀者というわけではないが。
すでにベヒナには自分たちのことが気付かれている。
部下の人数を見るに、彼女の直属の社員しかいないところを考えると、確証がなかったのだろう。
スパイシー·インクの全体で自分たちを始末するというよりは、この襲撃は彼女の独断だ。
それと幸いなことに、ベヒナはまだジェラートの存在には辿り着けていない。
自分を首謀者だと思っているなら、ホワイト·リキッドの本店である一号店は無事のはずだ。
マチャが黙っていると、ベヒナが口を開く。
「その顔からして、やはり図星のようだね。あんたは昔から嘘が下手だから、すぐに顔に出る」
「そういうお前は昔から自分勝手な行動をする。どうせ、上司の許可も取らずに私たちを襲っているんだろう。だからお前は職場でも嫌われてたんだ」
「それはあんたもだろ。石頭の頑固者。前の職場じゃ、私くらいしかまともに話してくれる奴いなかったしね」
ベヒナはそう言うと、拳銃をマチャたちへ向けた。




