#80
――バニラたちがショッピングモールのフードコートでチゲに襲われている頃。
マチャはラメルと共に、自分が任されている店――ホワイト·リキッド二号店へ向かっていた。
一晩ラメルの家で飲み明かしたせいか。
二人共、二日酔い気味の重い足取りで店へと向かう。
特にラメルのほうは顔色も悪く、今にも嘔吐してしまいそうだった。
「あぁ……頭がガンガンする……」
「飲み過ぎだ。お前は酒に弱いのにいつも飲み過ぎる。そろそろ自分のペースってのを覚えろよ」
「でもさぁ。せっかく二人で飲んでるんだぜ。そこは最後まで付き合わないと、だろ?」
「それで調子を崩されて介抱するほうの身にもなってみろ」
「へへ、俺はマチャに介抱されたくて酒飲んでるのかも~」
「昼間からふざけたこと言うな、バカ。まだ酒が残ってるのか?」
「残ってるよ~。マチャ、愛してる~」
「はいはい。言ってろ」
マチャとラメル二人が二号店へ向かっている理由は、業者に任せていた店の清掃作業が終わる時間が近づいていたからだ。
予定の終了時間にはまだ少し早いが。
二人は余裕をもって店に到着しようとしていた。
そんな二人の前に、突然スーツ姿の女性が現れる。
「ラブラブだな。こんな道端でイチャイチャしちゃって」
「あんたは……ベヒナ?」
「久しぶりだね、マチャ。元気してたか?」
ベヒナと呼ばれた髪を一つに束ねた三つ編みの女性は、気さくにマチャに向かって笑みを浮かべた。
どうやら二人は顔見知りのようだ。
だがそんなベヒナとは反対に、マチャは不可解そうな顔を彼女に返す。
「こんなところで、なにしてんのあんた?」
「おいおい、ずいぶん冷たいな。私たちは元同僚だろ。同期の桜で竹馬の友。ま、男ができると女は変わるっていうけど」
「別に私は変わっちゃいない。……悪いけど、ちょっと急いでるんだ。用があるならまた今度――ッ!?」
マチャが前に立つベヒナを通り過ぎようとした瞬間――。
彼女は拳銃を抜いてマチャへと向けた。
慌てて飛び出したラメルがマチャに覆いかぶさり、それとほぼ同時に銃声が鳴り響く。
「ラメルッ!? クソッ!」
マチャは咄嗟ににベヒナの拳銃を持った手を蹴り飛ばした。
そして、ラメルに肩を貸してその場から立ち去る。
路地裏へと入り、腹から血を流しているラメルのことを眺めながらただ走る。
「逃がすな!」
背中からはベヒナの大声が聞こえてくる。
その言葉から察するに、どうやら追って来そうなのは彼女だけではなさそうだ。
「くッラメル! お前、どうして私なんか庇ったんだバカッ!」
「そりゃ……庇う……だろ? だって……俺は……お前……」
「いいからもう喋るな! 絶対に助けるからな! それまでなんとか頑張れ! もし死んだら、もう一緒に飲んでやらないぞッ!」




