#78
バニラたちは男のほうを見る。
スーツを着た細身の目つきが悪い男は、ブラックコーヒーを飲みながら一人でテーブルについていた。
誰だとダークレートが思っていると、ストロベリーがムッと顔をしかめて男を睨みつける。
「なんだよ? まさかこのおっさんもアンタの知り合いなの、ダークレート?」
「いや、知らないけど」
「じゃあナンパか? ま、あたしはカワイイからね~。つーかおっさんが若いあたしらをナンパするのって犯罪じゃね?」
二人が言葉を交わしていると、男が再び口を開いた。
ファーストフードには中毒性があり、若いうちからこんなものばかり食べていると味覚が鈍くなり濃い味を好むようになる。
さらに気分が落ち込みやすくなり、体重とコレステロール値も増加。
脂肪肝になる可能性が上がる。
「なんなのこのおっさん? いきなり偉そうに説教なんかしやがって? もしかして無差別老害ってヤツ?」
「いいよ気にしなくて。さっさと食べよう」
ストロベリーが苦言を吐くと、ダークレートが相手にしないようにと皆に声をかけた。
男は独り言のように言葉を続ける。
「私の同僚もファーストフードが好きだった。少し乱暴な奴だったが、家族や会社を大事に想ういい奴だった……。だが、こないだ殺されたよ」
男は立ち上がって、バニラたちのテーブルの前に立つ。
そして、着ていたジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
「私はチゲ……。今話した男――ジャークの同僚だよ」
「ジャークって……。このおっさんまさかッ!?」
「ようやく見つけたぞ。白髪、赤毛、黒髪ロングの子供ども……」
ストロベリーが席から立ち上がると、チゲの手にはすでに拳銃が持たれていた。
それを見て彼女たちは慌ててその場から散り、放たれた銃弾から身をかわす。
発砲の衝撃で、テーブルに残っていたフライドポテトやピザ、ハンバーガーが宙を舞った。
「人違いでも構わん。お前らはこの場で殺す」
チゲがそう言うと、ストロベリーは一目散に逃げた。
フードコートからあっという間に姿を消し、ダークレートもカカオを抱えて彼女に続こうとしたが。
バニラはチゲのほうへと歩いて行く。
こんな真っ昼間から殺り合うつもりかと、ダークレートが表情を歪める。
「バニラ! 何やってるんだよバカ!? 早く逃げるよ!」
彼の背中に叫ぶダークレートと、彼女に呼応するように胸で抱かれているカカオも鳴く。
だが、バニラは止まらない。
ポケットから小さなドリンクボトルを出して、拳銃を構えるチゲに向かっていく。
「おじさんもスパイシー·インクか。なら、ちょうどいいや」
そして、それを一気に飲み干した。




