#7
それからバニラたちは何事もなくナイトクラブを出て、ビルの外に停車してあった車の前に立つ。
大きな四角い外観、短いボンネット、八人は乗れそうなフルサイズバンだ。
バニラはバンの窓をコンコンとノックすると、中にいた男がサイドウィンドウを開け、乗車するように首を振って促す。
スライドドアが開き、彼らは後部座席に乗り込む。
誰も助手席には行かず、ストロベリー、モカ、サニーナップが一番後ろの座席へと座り、その前にバニラとダークレートが腰を下ろした。
運転席にいた男は、全員が乗ったことをバックミラーで確認すると、バンを発進させる。
ハンドル握っている男はバニラたちの仲間だと思われるが、明らか彼らよりも年上だった。
外見から見て、年齢は四十~五十代くらいの小太りの男。
バニラたちの父親といってもいい容姿をしている。
車が走り出してから数分後に、小太りの男がようやく口を開く。
「ジェラートさんからしばらく夜の仕事はないって連絡があった」
「じゃあ、連絡あるまで遊んでていいの?」
「そんなわけないだろう。店のほうはちゃんと営業しなきゃいけないんだよ」
「なーんだ。ロッキーロードのケチ」
「嫌なら辞めていいんだぞ。辞めれるもんならな」
ストロベリーにロッキーロードと呼ばれた小太りの男が、どうでもよさそうに冷たく言った。
今二人の会話に出てきた店とは、同じく出てきた名前――ジェラートが経営しているスイーツ&バーだ。
ロッキーロードはその店の三号店を任されており、バニラたちは店員だ。
彼らの昼の仕事は店の営業で、夜はジェラートに頼まれた人物の始末することだった。
何故ジェラートがバニラたちに人殺しをさせているのか。
その理由を、店員であり、実行者である少年少女は知らない。
この中で、ジェラートと直接連絡を取り合っているのは店長であるロッキーロードだけだ。
しかし、少年少女たちはそんなことを気にしてなどいない。
彼ら彼女らにとって、自分のしていることの意味や理由などどうでもいいのだ。
ただ、これ以外の方法で生きる術がないのである。
「お前らは適当なところで降りて歩いて帰れよ」
「はあッ? 仕事でがんばったあたしらに歩いて帰れっての?」
ロッキーロードの言葉に、ストロベリーが不機嫌そうに返した。
だが、ロッキーロードは相手にしない。
他の者たちもいつものことだと諦めているのか。
文句を言ったのはストロベリーだけで、誰も何も言わなかった。
「これから行くところあるんだよ、俺は」
ロッキーロードはムスッと頬を膨らませているストロベリーにそう言うと、車を道路の端へと寄せて停車した。