#76
その後、クリムの仲裁でストロベリーの喚きは止まり、彼女たちはクリムの自宅兼診療所へと行くことになった。
ダークレートはよく来ていた場所だが。
そこにバニラやストロベリーがいることに、彼女は違和感を覚える。
「ほら、コーヒーだぞ」
診療所で待たされていた彼女たちの前に、クリムがコーヒーを持ってきた。
バニラはグイッとそれを飲み干すと、苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「マ、マズい……。なんなんだこれ……?」
「ハッハハ、ガキだなお前は」
「ガキ? なんでガキなんだ? たかが飲み物で大人と子どもの区別をつけるのかよ?」
「うっせぇな。ガタガタ言うなっての。コーヒーってのは大人しかわかんない味なんだよ」
そう言いながらストロベリーもコーヒーを飲むが、彼女もバニラと同じように苦い顔をする。
「マズいんだろ? お前もガキだ」
「うせぇバカッ! このコーヒーがマズいんだよ!」
また言い争いを始めるバニラとストロベリー。
ダークレートはそんな二人を見ながら、コーヒーに砂糖とミルクをタップリと入れ、スプーンでかき混ぜていた。
「あんたらっていつもそうなの?」
部屋にあったベットに座って揉めているバニラとストロベリーを見て、クリムが訊ねた。
ダークレートはブラックからブラウンへと色を変えたコーヒーを口にしながら、頷いて返す。
そんなダークレートの膝の上にいたカカオも、彼女の真似をしてコクッと頭を下げた。
それを見たクリムは、笑いながらブラックコーヒーを飲み、着ていた白衣のポケットに手を入れる。
「こっちならいいでしょう。ほら、食べな」
そして、ポケットからキャンディーを出し、バニラとストロベリーに与えた。
二人は袋からキャンディーを出して口に放り込むと、もう言い合いをするのを止めていた。
「なあ、髪の短い人。アンタはこいつのなんなの?」
キャンディーで気持ちが落ち着いたストロベリーが、クリムにダークレートとの関係を訊ねた。
髪の極端に短い女性を見たのが初めてだったのだろう。
めずらしそうに彼女のことを眺めている。
「その前に、あんたらの名前を教えてよ」
「人に名前を聞くときは先に自分から名乗るもんでしょ」
「あぁ、そうだね。私はクリム、一応医者だ。この子とは、偶然街で知り合っただけで、それからの付き合いってやつ?」
クリムは自分の名前を答え、ダークレートとの関係を簡潔に言った。
バニラはまったく興味がなさそうで、聞いたストロベリー自身もどうでもよさそうに「あ、そう」と返事をしていた。
「そうだ。あんたらも、もし帰るとこなかったうちに泊まり来な。メシぐらいなら出してやれるよ」
「ちょっとクリム! ダメだよこいつらはッ!」
「なんで? あんたの友だちでしょ? 別にいいじゃん」
声を張り上げたダークレートに、クリムは不思議そうに小首を傾げた。




