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#73

人工島――テイスト·アイランドのとある公園墓地。


そこに並ぶ墓標(ぼひょう)は、この霊園が無宗教というのもあってか実に質素なものだった。


そこへ花束を持った若い男女が現れた。


一人は緑色の髪をした女性で、もう一人は中性的な顔立ちをしたブラウンヘアの男だ。


二人の名はホワイト·リキッド二号店のマスターであるマチャと、その従業員であるラメル。


彼女たちがここへ来た理由は、これまでに亡くなった店で働いていた少年少女の墓参りをするためだった。


マチャがその並んでいる墓標の群れの前に、持ってきていた花束を置いていく。


ラメルもまた彼女と同じことをしていた。


すべての墓標に花束を置き終えると、二人は線香(せんこう)などあげず、両手の(てのひら)を合わせて(おが)んだりもせずに、ただそれらを眺めている。


「よく続くな。こんなこと……」


ラメルがマチャにそう言うと、彼女は何も答えなかった。


そして、黙ったままその場を後にする。


(うつむ)きながら公園墓地を去って行くマチャの後に、ラメルも続く。


今日と明日は、ホワイト·リキッド二号店の清掃のため休業となった。


基本的に休みなどない二号店だが。


月に一度は店の清掃を業者に委託(いたく)しているため、その日は休業日になっていた。


殺虫や消毒などは、飲食店では基本的なことだ。


ジェラートの方針もあって、毎月の清掃時には、二号店も連休を取るように言われていた。


その休日に、マチャは必ず墓参りをしていた。


ラメルが来たのは今日が始めてだったが。


どうやら彼は、マチャが墓参りを続けていることをよく思っていないようだった。


「よし、じゃあ飲むか?」


公園墓地にある駐車場で、車に乗り込む前にラメルが口を開いた。


マチャが顔を上げ、彼に声を返す。


「おいおい、まだお昼だぞ……」


呆れながらも、彼女の顔は少し嬉しそうだった。


マチャとラメルは、店が休みのときはいつも二人っきりで飲んでいる。


そのすべてが宅飲みだ。


飲みの場は、前は互いの家を交代で使っていたが。


今はバニラたち居候(いそうろう)がマチャのいるマンションに住むようになったので、ラメルの家でやっていた。


「いいじゃねぇか。明日も休みなんだしよぉ」


「しょうがない奴だな、お前は。ま、ここからなら帰り道にスーパーもあるし、昼食もついでに作ってやるよ」


マチャは両方の眉毛を下げながらも、笑みを浮かべて運転席に乗り込む。


ラメルはそんな彼女を見てニッコリと微笑むと、彼女に続いて車の助手席へと腰を下ろした。


「昼メシは何を作ってくれるんだ?」


「飲む酒による」


「じゃあ、酒は何にする?」


「訊かなくてわかるだろう。いつもの大吟醸(だいぎんじょう)だ」


マチャはそうラメルに返事をすると、アクセルを踏み込んで車を走らせた。

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