#72
――ホワイト·リキッドでパーティーが行われている頃。
ジャークとその家族が殺されたことを知ったスパイシー·インクの幹部たちは、社長であるレカースイラーに呼び出されていた。
要件は当然、ジャークたちを殺した犯人のことだったが。
誰もその目星がついていないという報告で、集まりは解散となった。
全員がレカースイラーに頭を下げ、その場を立ち去ろうとすると、彼は幹部らに向かって口を開く。
「お前たち全員、私に何か隠しているなら、今のうちに言っておいたほうがいいぞ」
静かながら威圧感のある声。
だが幹部たちは身に覚えがないといった態度を取り、レカースイラーの前から去って行った。
部屋に残されたレカースイラーは、そんな去って行く幹部らの背中を見て呟く。
「……本当に、今のうちなんだがな……」
その後、幹部たちはバラバラに帰って行った。
髪を一つに束ねた三つ編みの女性――ベヒナもまた部下の車に乗ってその場を後にしようとしたが。
彼女のことを、細身の目つきが悪い男――チゲが誘う。
「少し、話をしないか?」
「そうだな。私もそう思っていたところだ」
ベヒナは部下に自分はチゲの車で帰ると伝え、彼の誘いに乗った。
彼女がチゲの乗る車に近づくと、彼は助手席のドアを開ける。
「あら優しい。ありがとね」
「フンッ、当然のマナーだ。早く乗れ」
そんな紳士な態度に、ベヒナは表情をゆるませていた。
彼女には、普段から女遊びなどしないチゲが、自分にしかこういう真似をしないことを知っている。
ただ、それが恋愛的なものなのかは彼女にも測りかねていた。
しかし、正直こうやってエスコートされるのは気分が良い。
ベヒナはそう思いながら助手席に腰を下ろした。
「ジャークはいい奴だった……」
それから車を発進させ、チゲがハンドルを握りながらそう言った。
ベヒナが黙っていると、彼は言葉を続ける。
「お世辞にも上品とはほど遠く、粗暴なところはあったが。あいつほど会社や家族を大事にしていた奴を、私は知らない……」
「同感ね……」
寂しげに答えたベヒナ。
どうやら二人共、殺されたジャークに対して、ただの同僚以上に想っていたところがあったようだ。
レカースイラーの前で見せなかったが、今のチゲの表情には怒りの色が浮かぶ。
「なあ、ベヒナ。あいつを殺した人間に、何か心当たりがあるんだろう?」
「心当たりというほどではないよ。ただちょっと気になったことがあっただけ」
「じゃあ、そいつを教えてくれ。あのバカの仇は……私が必ず討つ」
チゲに訊ねられたベヒナは、自分が気になっていたこと――。
現在ホワイト·リキッド二号店で働いている、前の職場の知り合いについて話し出した。




