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#71

彼女が店の外へ出るとラメルが煙草(たばこ)を吸っていた。


マチャも彼の横に並び、ポケットから煙草を出して口にくわえると、彼が持っていたライターで火を付けて彼女の前に出して来る。


「お前さ。ジェラートさんのこと嫌いだろ?」


紫煙(しえん)を吐き出しながらラメルに訊ねるマチャ。


訊ねられたラメルも煙をすぅーと吸って吐き出しながら、彼女と目を合わせずに答える。


「別に、嫌いとかじゃねぇさ」


「嘘つき。あんなあからさま態度を見てれば誰でもわかるよ」


マチャもラメルも、互いに夜の街を眺めながら言葉を交わし合う。


マチャには、どうしてラメルがジェラートが嫌いなのかがわからなかった。


少なくとも彼も自分と同じように事情があって、ジェラートが経営するスイーツ&バーであるホワイト·リキッドで働いているはずだ。


店で働いている従業員の多くが、この人工島テイスト·アイランドを支配しているスパイシー·インクに何かしらの恨みがある人間が多い。


ジェラートはこの島で唯一そういう人間の味方なのだ。


大袈裟にいえば、彼女は島のつま弾き者、鼻つまみ者の救世主。


その人柄と美貌もあり、店で働いている人間でジェラートのことを嫌う人間などいない。


むしろ恩人や理解者といった感じで、誰もが彼女のことを(した)っている。


ラメルはいつも持ち歩いている金属製の携帯灰皿を出して吸い殻を入れると、新しい煙草に出して火を付ける。


「……なあ、マチャはなんであんな女が好きなんだ?」


「おい、ちょっと飲み過ぎじゃないか? ジェラートさんの悪口いうなんて。お前だってあの人には世話になっているだろう?」


「世話……世話ねぇ……。奴隷(どれい)の間違いじゃねぇか……。みんな、あの女のよぉ……」


アルコールが入っているせいか。


何があっても笑みを絶やさないラメルとは思えない言い方だ。


マチャはジェラートのことを尊敬している。


だが、ラメルが理由も無しに人の悪口を言うような人間ではないことも知っている。


ジェラートとラメル二人の間に、一体何があったのか。


そのことを前からずっと気になっていたマチャだったが、やはり訊ねることができなかった。


それは、もしラメルがジェラートに敵意を持っていたとしたら、彼を殺さなければいけない可能性が出てくるからだ。


最悪のことを考えれば、ラメルがスパイシー·インクに寝返ることもあり得る。


そのことが表面化、または現実になることを恐れ、マチャはそれ以上の追及をすることができなかった。


「あー……わりぃ。変なこと言った……。店に戻ろう。飲み直そうぜ」


ラメルはそう言うと、マチャに視線を合わせた。


そこにはいつも通りのラメルの笑顔があり、微笑んだ彼は火を付けたばかりの煙草を携帯灰皿に入れて店へと戻って行く。


「あぁ、そうだな。戻ろう。だけど、あまり飲み過ぎるなよ」


マチャはラメルの後に続き、彼の背中にそう言った。

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