#6
バニラは呟くように返事をすると、VIPルームにいた若作りした色黒の男へと向かっていった。
傍にいた女が蜘蛛の子を散らすように男から離れていく。
「もう一度言うぞ。俺が誰だか――ッ!?」
近づいてきた白髪の少年に対して、色黒の男が凄んだ次の瞬間――。
バニラがその顔面に頭突き。
それから、その一撃で倒れた男に馬乗りになって何度も拳を振り落とした。
「おまッ!? ガハッ!? バカッ! やめッやめろッ! ガハッ!?」
必死で止めるように言い続ける男の顔を、バニラは淡々と殴りつけていく。
次第に腫れ上がる頬や瞼。
鼻は最初の頭突きですでに折られ、穴の開いた水風船のように血がドバドバと流れ出している。
動きが止まり、もう言葉すら発しなくなった色黒の男だったが、バニラはまだその潰れたトマトのようになった顔面を拳を振り落としていた。
拳を打ちつけるたびに男の血が飛び散っ、バニラの白い髪と彼の白い肌を赤く染めていく。
その行為を見かねたのか、黒髪の少女――ダークレートがバニラに声をかける。
「おい、バニラ。もういいでしょ」
「まだ、まだまだだよ」
「とっくに死んでるよ、そいつ」
ダークレートがそう言うと、バニラは手を止めて立ち上がった。
そして、顔に飛び散った赤い血を拭うとVIPルーム内を見回した。
ルーム内では、先ほど色黒の男から離れた男や女が、ストロベリーによって殴殺されていた。
おそらくは男たちのほうは色黒の男の部下で、女たちは金で呼ばれた素人のコンパニオンだと思われるが。
全員が無惨にも、殺処分の決まって処分された養豚場の豚のように倒れている。
その光景を見て、バニラが言う。
「こいつらは仕事と関係なんじゃないか?」
「あん? ついでだよ、ついで。おーい、サニーナップにモカ。ついでのついでにこいつらから金目のもん取っといて、もちろん黒光りのおっさんのもね」
ストロベリーの指示に従い、サニーナップが色黒の男の身体を弄り始め、モカは恐る恐る倒れている女たちのバックを漁り出した。
その様子を見ていたダークレートは顔をしかめていたが、バニラは気にする様子もなく、また口を開く。
「仕事は終わった。さっさと出よう。もうすぐ迎えが来る」
「わーってるって。ほら、二人とも早くしないと置いてっちゃうよ~」
バニラがVIPルームを出て行くと、ストロベリーが彼に続いていった。
手に奪った財布や貴金属を持ったサニーナップとモカは、慌てて二人を追いかける。
「おい待てよ、お前らッ!」
「置いてくなんて酷いよ、ストロベリーちゃんッ!」
二人がVIPルームを出て行ったことを確認したダークレートは、転がる死体の山を見て、側にあったテーブルを蹴り飛ばした。
「いつまでこんなことしなきゃいけないんだよ……」
そしてそう呟くと、皆の後を追いかけるのだった。