#66
ストロベリーが「ウゲェ」と声を漏らすと、彼女の後ろにいたバニラとダークレートも、マチャとラメルの前に出てくる。
「一体どこに行ってたんだよ? こっちは猫の手も借りたいってときだったのに」
「ジェラートさんに呼ばれた。だから店には来れなかったんだ」
「あたし、初めてジェラートって人に会った」
「アタシも」
ラメルが訊ねると、バニラは愛想なく答え、ストロベリーとダークレートも口を開いた。
それは知っているとラメルが返すと、マチャが会話に入って来る。
「お前ら、敬語はどうした?」
「えッ、だって前に使わなくていいって言わなかったッけ?」
「私には使わなくていいと言ったが、ラメルはお前たちの先輩だぞ。言葉遣いには気を付けろ」
マチャがそう言うと、バニラは何の反応も見せずに突っ立っていた。
ストロベリーのほうは見るからに不機嫌そうになり、ダークレートはその場から離れて店の控室へと歩いて行く。
マチャがそんなバニラを睨むと、ラメルが慌てて間に入る。
「まあまあ、いいじゃんよマチャ。俺は別に敬語とか気にしないって」
「お前のことはどうでもいい。これは、これからこいつらが社会でやっていくために教えておいたほうがいいことなんだ。お前のためにやっていることじゃない」
「いや、なんも同じようなこと二回も言わんでも……。なんかへこむな……」
さめざめとしおれたラメルを見てストロベリーが笑っていると、マチャがバニラと彼女に早く着替えて仕事を手伝うよう促した。
バニラは黙ったまま、ストロベリーのほうは再びムッと顔をしかめたが。
マチャの言う通りにし、ホワイト・リキッドの制服――ウエストコートに着替えるため、控え室へと歩き出す。
バニラたちが姿を消すと、ラメルがマチャに声をかける。
「なあ、ジェラートさんの呼び出しで日をまたいだってことは――」
「あぁ、十中八九誰かを始末したんだろうな。おそらくスパイシー・インクの幹部の一人か」
ラメルが言葉を言い切る前に答えたマチャ。
そのときの彼女の顔は、深い悲しみに満ちていた。
そんなマチャを元気づけようとしてか。
ラメルが声のトーンをあげて言う。
「……なあ、前に俺が言った話、考えてくれたか?」
「なんだそれ?」
「忘れてんのかよッ!? けっこう、いやかなり勇気振り絞って言った話だったんだけどッ!」
マチャが身に覚えがない態度を取ると、ラメルは悲しそうに声を張り上げた。
そんな彼の姿を見たマチャは、クスクスと笑みを浮かべて答える。
「冗談だ、冗談。ちゃんと覚えてるよ」
「冗談でもそんなこと言うなよッ!」
からかうなと続けて怒ったラメルは、すぐにその表情を真剣なものへと変えた。
そして彼は、再び訊ねる。
「で、どうなんだ? その……前に訊いた店を辞めようって話については?」




