#62
問い詰めるように叫んだジャークに対して、バニラは無愛想な顔を向けたまま何も答えない。
ただゆっくりとした動作で、再び彼に手を伸ばしてくる。
ジャークは慌てて後退すると、両手を握りしめてファイティングポーズを取る。
「沈黙はYESと取るぜ。なんだよ、殺された仲間の復讐か?」
「復讐? いや、別に仕事だから」
淡々と答えたバニラに向かってジャークは一気に距離を詰めた。
伊達に警備会社の幹部ではない。
彼は元々は格闘家を目指していたのもあって、その褐色の肌をした屈強な身体ともに、たしかな近接戦闘技術も持ち合わせていた。
「あれ? 消えた?」
バニラは何の反応もできずに、ジャークの接近を許してしまう。
そして、次の瞬間にはジャークの放った右ストレートを喰らい、吹き飛ばされていた。
全力で振り抜いた弾丸のような正拳突きだった。
だがバニラが倒れることはなく、鼻から垂れる血を手で拭っている。
「俺の一撃を受けて倒れねぇのかよ?」
喰らわせたジャーク本人が驚いていると、バニラは再び彼に近づこうと歩を進めた。
ジャークは瞬時に反応し、巨体とは思えないフットワークで動き回り、バニラの顔面にジャブを放つ。
しかし、彼の動きに慣れてきたのか。
バニラはまるで子供が周囲を飛び回る虫を払うかのように手を振り、繰り出されたジャブを避けていた。
このまま続けても攻撃が当たらないと判断したジャークは、 向かってくるバニラから距離を取ると、ファイティングポーズを取ったまま彼に声をかける。
「なんだお前? えれぇ反応がいいわりに、まったくの素人じゃねぇか。ただの子供なのか殺し屋なのかよくわかんねぇな」
「アンタ強いね。ぜんぜん捕まえられない。こんなこと初めだ」
「へッ、喧嘩ってのは腕力だけでやるもんじゃねぇんだよ。それを今から教えてやる」
「……? 腕力以外ってことは、銃とかナイフってこと?」
「ちげぇよ馬鹿ッ!」
そう叫びながら再び仕掛けるジャーク。
バニラは手を伸ばして捕まえようとするが、やはり彼を捉えることができない。
何度も殴られながらバニラは思う。
トランス・シェイクを飲んだ影響で、今の自分は目の前のジャークよりも力もスピードも上回っている。
しかし、何故彼を捉えることができないのか。
あんな大きな身体をしているのだから、すぐに捕まえられそうなものなのだが。
バニラは、どうして自分のほうが強いのにやられているのかがわからなかった。
考えてみてもわからず、ただ為す術なく、ジャークにいいように殴られ続けているだけだ。
このまま何もできずにやられるのか。
バニラがそう思っていると、ジャークかやって来たほうから悲鳴か聞こえてくる。
「きゃぁぁぁッ! パパッ! パパたすけてぇぇぇッ!」
それは、ジャークの娘が父親に助けを求める叫び声だった。




