#60
「あいつ、こんなスゲー家に住んでおまけに美人の奥さんとカワイイ娘もいるんだ……。あームカつく」
赤毛の少女――ストロベリーが顔をしかめながらそう言った。
その傍にいた白髪の少年バニラと、黒髪ロングヘアの少女ダークレートは、彼女のことを無視してそれぞれ後片付けをしていた。
バニラは庭にいた番犬――ドーベルマンを押さえつけ、吠えることも許さずに息の根を止める。
細身だが筋肉質で、敏捷性、走力ともに高い犬のサラブレッドと呼ばれるドーベルマンだが。
トランス·シェイクによって身体能力が向上したバニラにとっては、動けるぬいぐるみとさほど変わらない。
口を塞がれながら喉を握り潰され、哀れにも整えられた立派な庭に放り出される。
一方のダークレートは庭にあった監視カメラを回収して破壊し、足で踏みつけている。
「サボってないでアンタも仕事しろよ」
「えー別によくね? 犬とカメラごときにあたしの力はいらねぇだろ」
「そういう意味で言ってないんだけど」
まったく手伝おうとしないストロベリーを注意したダークレートだったが。
赤毛の少女は悪びれる様子などなく、ジャークたちがいる豪邸のほうを見ている。
「外はこれで全部片付いたな。じゃあ、中に入るぞ」
「あん? なにアンタが仕切ってんだよ。犬殺したくらいでチョーシ乗ってんじゃねぇぞ」
「だったら仕事しろよ、お前」
突っかかってきたストロベリーに苦言を返すバニラは、彼女の相手をせずに豪邸へと歩き始めた。
そんな彼の背中を睨みつけながら、次にダークレートへと視線を向けたストロベリーは、彼女に向かって言う。
「つーか、アンタ。またドリンク飲まないわけ?」
「別にいいでしょ。アンタみたいにサボってるわけじゃないし」
「サボってねーし。あたしはここぞというときが来るまで力を温存しているんだよ。もしあたしが毎回本気出したら、アンタらお払い箱になっちゃうよ」
「仕事できないヤツほどそう言う」
「あッ! 今のマジでムカついたんだけど! ってちょっと待てよ幽霊女ッ!」
ダークレートもまたバニラのようにストロベリーをまともに相手せずに、バニラの後を追う。
彼女三人は、ホワイト·リキッド三号店が閉店してから、緑髪の女性――マチャの任されている二号店へと移った。
現在はマチャの家で居候している。
今夜の仕事はマチャからではなく、彼女たちが働くホワイト·リキッドの経営者――ジェラートからの指示である。
理由はわからないが。
スパイシー·インクの幹部たちは、社長であるレカースイラーにバニラたちのことを報告していないようだった。
それを知ったジェラートは、ストロベリーの顔を見ているジャークを始末をするように言ってきた。
今は亡き三号店のマスターであるロッキーロードに拾われたストロベリーは、ジェラートの存在をこれまで知らなかったようだが。
めずらしく文句一つ言わずに、彼女の命令を聞いている。
ストロベリーは先を歩くバニラとダークレートに追いつくと、肩を揺らして不敵に笑う。
「よーし。こっからはあたし一人でやってやるから、アンタらは休んでろよ」




