#57
――煌びやかな店内を多くの客が埋め尽くしている。
色とりどりのカクテルを飲みながら誰もが笑顔で談笑している中で、一際目立つウエストコース姿の女性がいた。
このホワイト·リキッド一号店の経営者であるジェラートだ。
彼女は真ん中で分けたショートの金髪の長身で、常に男装をしているが。
張っている胸に盛り上がった尻が腰のくびれを強調しているため、すぐに女性であることがわかる。
経営者ながらジェラートは今夜も店に立ち、常連客も一見さんも関係なく客に声をかけられては笑みを返していた。
彼女がいるホワイト·リキッド一号店は、マチャやロッキーロードが任されている二号店、三号店よりも大きく、バーというよりはレストランに近い。
さらに至るところに果物をモチーフにした可愛らしいインテリアが飾られており、若い女性客も多かった。
長身で顔の整ったジェラート目当てで店に来る客も大半で、一号店は毎日大繁盛している。
皆、店自慢のスイーツやアルコール以外にも、他の従業員に交じって接客をするジェラートを見に来ているのだ。
「いらっしゃい。おッ、これはめずらしいお客さんだね」
ジェラートが店に入ってきた人物に声をかけた。
そのスーツ姿の男を引き連れた人物が店に入って来ると、それまで談笑していた客たちが一気に黙る。
皆が見ただけで口をつぐんでしまう人物は、白髪の短髪で道着のような和服を着ている男――。
この人工島テイスト·アイランドを仕切っている警備会社スパイシー·インクの社長――レカースイラーだった。
ジェラートは彼のもとへ行くと、早速個室を用意しようとしたが――。
「カウンターでいい。それと、後ろの奴らには適当にテーブルに座らせてやってくれ」
「そう? あなたがそういうならそうするけど」
島の支配者を相手に、まるで友人のように返事するジェラート。
レカースイラーが連れている部下たちが、彼女の気さくな態度を気にしていないところを見るに、どうやら二人の関係は昔からこういうものだったようだ。
ジェラートにカウンター席に案内され、レカースイラーが腰を下ろすと、先に座っていた男女が持っていたカクテルを一気に飲み干して料金を払って離れていく。
「あらら、あなたが来るといつもこうだね。毎日来られたら店が潰れちゃう」
「いいから何か飲ませろ」
レカースイラーが無愛想にそう言うと、ジェラートはカウンター内へと回り、彼と向き合いながらカクテルを作り始めた。
手足が長く、長身のジェラートがリズミカルにシェイカーを振る姿は、まるで映画のワンシーンのようで、レカースイラーに怯えていた他の客たちが離れた位置から彼女に見とれている。
それからジェラートの手によって真っ赤な液体がグラスに注がれ、レカースイラーの前に出された。
「今日はブラッディメアリーか」
ブラッディメアリーは、プロテスタントの指導者を多数惨殺し、『血まみれのメアリー』と呼ばれていたイギリスの女王メアリー1世に由来しているカクテル。
そんなブラッディメアリーのカクテル言葉は、“私の心は燃えている”である。
レカースイラーはグラスを手に取って、ブラッディメアリーを口にする。
「ずいぶんとキツイな。まるでお前のようだ」
「それって、褒めてくれているのかな?」
アルコール度数の高さに口元を歪めるレカースイラー。
ジェラートはそんな彼を見て、実に嬉しそうに首を傾げた。




