#56
その後、身体を拭いて戻ってきたバニラもダイニングに腰を下ろし、マチャ、ストロベリー、ダークレート、カカオ皆でテーブルを囲む。
だが少年少女の食べる姿を見て、マチャは顔を歪める。
バニラはサラダにかけるドレッシングやカレーをテーブルに撒き散らし、ダークレートはカレーライスの白飯には手を付けない。
ストロベリーのほうはサラダの皿にカレーに入っていた野菜を移して、カカオの前に置いている。
「お、お前らなぁ……」
「うん? なんだよ? 風呂には入ったし服も着替えたぞ」
バニラが口の周りにカレーを付けながら、モグモグと口を動かしながら言うと――。
「食べ方が汚いんだよッ! それとお前は米を食えッ!それからお前は野菜を残してクマに食わすなッ!」
マチャはまた声を張り上げた。
それからもマチャはバニラたちのマナーの悪さに辟易しながらもなんとか食事を終え、その日は終わった。
そして次の日――。
マチャはバニラたちを連れ、自分が任されているホワイト·リキッド二号店へとやってきた。
先に店に来て仕込みをしていたラメルが、グッタリとしている彼女を見て乾いた笑みを浮かべている。
「おはよう、マチャ」
「あぁ、おはよう……」
「なんかちょっと会わない間にえらいやつれたな」
「……あいつら最悪」
二人がそんな会話をしているとき――。
二号店の控室では、マチャがバニラたちに与えた店の制服に着替えていた。
どうやら殺されたロッキーロードが任されていた三号店では制服がなかったため、マチャが在庫を彼らに渡したようだ。
マチャとラメルが話していると、着替えてきたバニラたちが店内に戻って来る。
三人共経営者であるジェラートや、マチャ、ラメルと同じく白いワイシャツにウエストコート姿だ。
「おぉ、似合ってんじゃんよ三人とも」
ラメルがそう言うと、ストロベリーとダークレートが顔をしかめた。
どうやら彼女たちはこういうかたくるしい格好は好きではないようだ。
だが、バニラだけはめずらしく表情をゆるめている。
「ジェラートさんと同じく服……。フフフ……」
「ゲッなにコイツ? キモいんだけど……」
「放っておきなよ。こいつはもともとそういうヤツだ」
自分の着ている服を見てニヤニヤしているバニラ。
そんな彼を見て引いているストロベリーに、ダークレートが気にしないように言った。
いつまで突っ立っている三人へマチャが言う。
「ほらお前ら、もうすぐ開店時間だぞ。さっさと仕事しろ」
マチャにそう言われ、バニラは店内の掃除を始めた。
だが、ストロベリーとダークレートは突っ立ったままだった。
そんな二人にマチャが訊ねる。
「どうした? 早く仕事をしろ」
「いや、でもアタシ、働いたことないし」
「あたしも~」
「へッ……?」
どうやらマチャは知らなかったようだが。
彼女たちがいた三号店はほとんど開店休業状態で、まともに営業していたことがなかった。
店は基本的にバニラがずっと一人で掃除をしているだけ。
ストロベリーやダークレートらはいつも仕事をサボっていたため、働けと言われても何をすればいいからわからないらしい。
「はぁ……。ロッキーロードさんは何をやってたんだ……」
「まあまあ、少しずつ教えて行こうぜ」
緑色の髪を振り回し、頭を抱えるマチャ。
ラメルはそんな彼女の肩をポンポンと叩くと、バニラたちに飲食店での仕事のやり方を教え始めた。