#55
それからラメルと別れたマチャが自宅のマンションに帰ると、見覚えのない小熊が廊下を走り回っていた。
それを追いかけて抱き上げた黒髪のロングヘアの少女が、玄関で立ち尽くしているマチャに声をかけてくる。
「アンタがマチャだね。アタシはダークレート。今日からよろしくね」
「クマ……? なんでうちにクマがいるんだ?」
「あぁ、この子はカカオだよ」
「名前は訊いてない……」
マチャは呆れながら部屋に入ると、そこには白髪の少年と赤毛の少女がそれぞれ自分の荷物を整理している。
バニラとストロベリーだ。
「あッきたきた。なあハラ減った。早くメシ作ってくれ」
ストロベリーが急かすようにそう言った横では、バニラが黙々と自分に与えられた空き部屋を掃除し始めていた。
「なあ、早くメシ作ってッ! 腹減って死んじゃうッ!」
「カカオのぶんも頼むよ。ちなみにカカオはなんでも食べるけどお腹が緩くなりやすいから気を遣ってね」
唖然としているマチャに向かってストロベリーが喚き、ダークレートが小熊の食事について注意事項を口にしている。
一方バニラはこれから世話になるというのに、マチャに挨拶すらせずに掃除を続けていた。
「ボケッとしてないで早くしろよ~! つーか冷蔵庫に野菜以外の食いもんくらいなんか入れとけよ! あたしは育ち盛りなんだ!」
「ここ広いけど、なんにもないなぁ。テレビくらい置いたら?」
次第に文句を言い始めたストロベリーダークレート。
マチャは二人を一瞥し、次にダークレートの抱いている小熊のカカオを見ると、次にバニラのほうを見た。
彼は二人に比べると明らかに汚い格好をしていて、動くたびにその凄まじい臭いが部屋にまき散らされてるようだった。
「ハラ減ったッ!」
「あとパソコンのパスワードはなに? ログインできないからネットも見れないよ」
さらに文句を続けるストロベリーとダークレートに、マチャはプルプルと身を震わせると、まずはバニラに風呂に入って服を着替えるように叫んだ。
そして、そのままの勢いでストロベリーとダークレートを黙らせると、ダイニングで小熊と一緒に待っていろと声を張り上げる。
バニラはマチャの言う通りに着替えを持って浴室へと向かい、ストロベリーとダークレートは頬を膨らませてダイニングに向かって腰を下ろした。
マチャはそれから部屋着に着替えるのも忘れ、キッチンへと向かい、新しい居候たちのために料理を作り始める。
「なんで……なんで私がこんなことを……」
ブツブツと独り言を口にしながら食材を切って鍋に火を入れるマチャ。
どうやら今夜の料理は昨夜に残していたカレーライスと、付け合わせのサラダのようだ。
マチャが白飯とカレーを皿に盛っていると、風呂に入ったばかりのバニラがダイニングに現れた。
言われたように身体を洗って服も着替えたため、もう臭さは消えていたが。
髪を乾かしていないので、ビチャビチャに濡れたままだ。
それどころかろくに身体をタオルで拭いていないため、着替えたばかりの服も濡れていた。
マチャはそんな彼を見てワナワナとまた身を震わせると、ダイニングに向かって声を張り上げる。
「おいッ! 髪を乾かして身体もちゃんと拭けッ! それとそっちのお前たちも待ってないで自分の食べるものくらい自分で運べないのかッ!」
その怒号がダイニングに響くと、ダークレートに抱かれているカカオが、マチャのあまりの迫力に怯えてしまっていた。
ダークレートはそんな震える小熊を宥めると、渋々ながらキッチンへと向かう。
ストロベリーも不機嫌そうにしながらもマチャの言う通りにし、彼女の作ったカレーライスとサラダをダイニングにあるテーブルの上に運んだ。