#49
その後、気を失ったバニラが目を覚ますと見慣れたカウンターがあり、奥にはこれまたよく知る様々な種類のアルコールのボトルが見えた。
カウンターの上にはビールのラベルが貼っているサーバーと、複数のボタンが付いた何台かのソーダのディスペンサーもある。
それを見るに、ここがバーであることに彼は気が付く。
「そうか……。オレは眠っちゃって……」
スパイシー·インクからバニラ、ストロベリー、モカを救出したジェラートたちが、彼をホワイト·リキッド二号店に運んだのだ。
バニラは横になった状態で顔を動かすと、そこにはウエストコート姿の緑色の髪をした女性――マチャがいた。
特に外傷のなかったストロベリー、モカ二人は、どうやら別のところにいるようで、今この場にいるのは彼女とバニラだけのようだ。
(なんだ、ジェラートさんじゃなくて、この女か……)
バニラにとっては初対面で殴られ、脅された相手だ。
正直彼は、マチャにあまり良い感情は持ていないでいた。
そんなことを思われてるとは知らずに、マチャはソファーに座ったまま、テーブルにあったリンゴをナイフで器用に切っている。
「ロッキーロードさんのマンションにあったお前の荷物、運んでおいたぞ」
リンゴを切りながら、バニラのことなど見ずに手元を見続けるマチャ。
彼女は切り終えたリンゴを皿に乗せ、どうやったのかまるで赤い羽根をした白鳥のようなものを作り上げた。
飾り切りというやつだろう。
バニラはそのあまりの造形のすばらしさに、我を忘れてリンゴの白鳥に見入っていた。
「ス、スゲェ……」
「聞いているのか?」
マチャはそんなバニラに声をかけたが。
彼はリンゴの白鳥から目を離せないでいる。
そして、ソファから身体を動かして横になった状態で、テーブルに手を伸ばした。
もう少しでリンゴの白鳥の乗った皿に触れそうになったが。
マチャが皿を動かし、バニラの手が届かない位置まで移動させる。
「聞いてるよ」
「そうか。ならそのまま聞け」
マチャがそう言うと、バニラは手を伸ばしたまま固まる。
そんな彼の状態を特に気にすることなく、マチャは話を始めた。
昨夜のナイトクラブ襲撃でバニラ、ストロベリー、サニーナップ、モカ四人の面が、スパイシー·インクに割れた。
おそらくはクラブ内にあった監視カメラの映像からわかったのだろう。
そして、どうやったかはわからないが。
ホワイト·リキッド三号店の人間らが犯人だとバレたため、ストロベリー、サニーナップ、モカ三人はさらわれた。
それを聞いたジェラートは、すぐにマンションから出たロッキーロードに、ストロベリーたちを救出するように指示を出す。
しかし、その救出は失敗。
バニラたち三人を助けることに成功したものの、結果としてはホワイト·リキッド三号店は閉店せざるえなくなり、サニーナップとロッキーロードは殺された。
マチャは説明を終えると、ゆっくりと俯く。
「最悪、最悪の結果だ……」
そうポツリと言ったマチャは、ナイフを持っていた手を強く握った。




