#4
扉を開けてフロア内に入ると、大音量の音楽が彼女たちの全身に降り注ぐ。
慣れない爆音にストロベリーは顔をしかめ、サニーナップが思わず自分の耳を塞ぐ仕草をした。
カラフルなライトが薄暗いフロアを照らし、モカはそれら照明を自分のことを狙う獣の群れのように思ってビクビクとストロベリーの背中にしがみつく。
やはり予想通りというべきか。
フロア内はイベント中で、床を振動させている巨大なスピーカーからは、ブースにいるDJが踊り狂う客たちを煽る声が聞こえてきていた。
誰も彼もが声を高らかに叫び声をあげて腰を振り、DJに向かって応えている。
色合いの濃い壁の側には 小さなスタンド式の丸テーブルが並んでおり、男女が互いの耳元へ顔を近づけて会話をしていた。
背もたれがない椅子が揃っているバーカウンターには、くたびれたTシャツ姿の店員が眠っている。
「これがクラブってヤツ? なんかうっさいだけでぜんぜん楽しそうじゃないな」
ストロベリーは、グラスや酒瓶を口につけて踊っているだけの大人たちに辟易し、理解できないと吐き捨てた。
そんな彼女の声は、大音量の音楽によってかき消されたが。
全員がストロベリーの言いたいことがわかり、その内心で同意していた。
一体何が面白くて酒を飲んで身体を動かしているのか。
彼ら彼女らには、この光景が大人たちの憂さ晴らしであることを把握できても、この方法は理解できないでいた。
ストロベリーがポカンとフロア内を眺めていると、タイトなパンツを穿き、上にはジャケットを羽織った男たちが声をかけてくる。
「大丈夫? なんだか思いつめた顔してるから心配で声かけちゃったよ~。元気出して欲しいから何か奢らせて」
ジャケットの集団の男の一人が無遠慮に顔を耳元に近づけてきた。
モカが「ヒィッ!」怯んで下がると、ストロベリーが男のことを睨みつける。
男はそんな顔をしないでと、彼女に笑ってもらえるように両手を振っておどけてみせたが。
ストロベリーはまるで親の仇でも見るかのようにガンを飛ばし続けた。
だが、ジャケット男たちはめげない。
なんとかストロベリー、モカ、ダークレート三人の少女を誘い出そうと、声をかけてくる。
「君ら若いよね。もしかして未成年? よく中に入れたな」
「フン、まあね。身分証明書を喰らわせてやったから喜んで中に入れてくれたよ」
両腕を組んで得意気に返事をしたストロベリーに、男はようやく乗ってきた思ったのか。
再び彼女へ質問を始める。
「喰らわせたって、面白い言い方だね。それよりもその身体のタトゥーって本物? 凄いね」
「あん? タトゥーってなに?」
ストロベリーが不機嫌そうに訊き返すと、これまでじっとしていたサニーナップが前で出てきた。
ジャケットの男は、急に出てきた彼を見て笑う。
「おいおい、なんだよその目は? 喧嘩でもしたいのボクゥ?」
「やめとけよ。どうせ、こん中の子の男だろ? もういいから行こうぜ」
しばらくからかうと、ジャケット男たちはその場を去って行こうとしたが。
次の瞬間に、サニーナップがストロベリーに声をかけていた男をぶん殴った。
その一撃で、まるでゴムまりのように人混みの中を吹き飛んでいく男を見て、ストロベリーが微笑む。
「へぇ、助けてくれたんだ。ありがと、サニーナップ」
「お前さ、ああいうのいちいち相手にすんなよ」
「はいはい。じゃあ、気を取り直してVIPルームへいこうか」