#48
そう恐る恐る言ったモカに、覆面の女性は身体を向けた。
その手には、先ほどスパイシー·インクの社員たちを殺したサバイバルナイフが握られたままだ。
彼女はジェラートの経営するスイーツ&バーであるホワイト·リキッドの人間だと身元を明かしたので、当然モカたちの味方なのだが。
モカは自分が変なことを言ってしまい、そのせいで刺されるのではないかと、その身を震わせる。
「それは私の仕事じゃない。だが安心しろ。あの生意気な若白髪も死ぬことはない」
覆面の女性はそう言うと、モカと彼女に肩を貸しているストロベリーに背を向けて歩き出した。
女性の言葉にモカはホッと胸を撫で下ろすと、ストロベリーが言う。
「あんなの放っておきゃいいのに……。ま、助かったからいいけどさ」
モカはそう言いながら笑みを浮かべるストロベリーを見て、複雑そうな表情をした。
それから彼女の肩を借りて歩き、覆面の女性の後に続いていった。
――ストロベリーとモカ二人が覆面の女性に助けられた頃。
アスファルトの地面に屈していたバニラのところにも、彼の救出に現れた人物がいた。
その人物は二人――。
ストロベリーたちを助けに来た覆面の女性と同じく、顔を隠してバーテンバーのようなウエストコート姿をしている。
一人はミックスよりも小柄な男で、もう一人は二メートルはありそうな長身の女だった。
「周辺の奴らは全部片付きましたよ」
小柄な男が長身の女にそう言うと、女はコクッと頷いてバニラに覆いかぶさっているスパイシー·インクの社員たちを蹴り飛ばす。
すでに彼女によって絶命しているため、まるでマネキン人形のように抵抗なく転がった。
バニラはいきなり目に入った覆面で顔を隠している長身の女を見て、声を張り上げる。
「ジェラートさんッ!」
「あらら、顔隠してるのにわかっちゃうんだね、君は」
どうやら顔を隠している長身の女の正体は、バニラたちが働いているスイーツ&バーであるホワイト·リキッドの経営者ジェラートのようだ。
自分を助けてくれたのが彼女だと知り、嬉しそうに立ち上がろうとするバニラだったが。
少々暴れ過ぎたのか、ふらついて倒れそうになってしまう。
「おっと、大丈夫?」
そんなバニラの身体を支えるジェラート。
バニラは彼女に支えられると、その身体から出る香りに心の底から安堵していた。
(この匂い……やっぱそうだ……。ジェラートさんだ……)
それはまるで母に抱かれて眠る赤子か。
その例え通りに、ジェラートに支えられたバニラは、そのまま気を失ってしまった。
「うん? 眠っちゃったの?」
そのときのバニラの顔――安らぎに満ちた表情を見たジェラートはクスッと微笑むと、彼を背負って小柄な男と共にその場から去って行った。




