#47
「ス、ストロベリーちゃん……」
「くッ!? あいつは囮にすらならなかったのッ!? マジで使えないッ!」
震えるモカに、顔をしかめるストロベリー。
スパイシー·インクの社員たちはバニラだけでなく、周囲にいると思われるストロベリーやモカ二人のことも捜していたのだろう。
ライオットシールドと警棒を持ってないところを見るに、おそらく別動隊だ。
人数も三人ほどで、全身に刺青がないストロベリーたちにはトランス·シェイクによる身体能力の向上がないという判断をし、彼女らを捕らえようと近づいてきたのだ。
警備服姿の男たちはストロベリーとモカの逃げ道を塞ぐように囲みながら、ゆっくりと歩を進めてくる。
「クソッ! アンタもジッとしてないでなんとかしなさいよッ!」
モカに苛立ちをぶつけるストロベリー。
だが、もちろん彼女に男三人をどうにかできるはずもない。
トランス·シェイクがない状態では、ストロベリーもモカもただの十代の少女なのだ。
彼女たちがこのまま再び捕まってしまうかと思いきや、目の前にいた男がいきなり倒れた。
「えッ!? な、なんで……?」
それを見たストロベリーが呆然と立ち尽くしていると、倒れたスパイシー·インクの社員たちの後ろから顔がすっぽりと隠れる覆面をした――ウエストコート姿の人物が立っていた。
身長は170センチと少々高いが、胸のふくらみやほっそりとした腰のくびれがわかる体型を見るに、おそらく女性だと思われる。
その女性だと思われる覆面の人物の手には、血の付いたナイフが持たれていた。
分厚刃をしたサバイバルナイフだ、
覆面の人物はナイフの刃に付いたちをハンカチで拭うと、ストロベリーに声をかける、
「私はホワイト·リキッドの人間だ。死にたくなかったら一緒に来い」
「ホワイト·リキッドの人間? ってことは、じゃあ二号店とか一号店の人? よかった! マジで助かったよー!」
「いいから何も言わずについて来い。次に何か言ったら力づくで黙らせるぞ」
静かながら強い声に、ストロベリーは喋るのを止めた。
その内心では、偉そうに言う覆面の女性に苛立っていたが。
今は言う通りにしておこうと、感情を奥に引っ込める。
「おい、赤毛。そこの腰を抜かしてる子に肩を貸してやれ」
「えッ!? なんであたしがッ!? そんな男がやるようなことをしなきゃなんないんだよッ!」
「うるさいぞ。いいからやれと言ったらやれ」
凄まれたストロベリーは渋々モカに肩を貸して彼女を立たせた。
そんな不機嫌そうな彼女のことなど気にせずに、モカが覆面の女性に声をかける。
「あ、あの……ありがとうございます……」
「礼はいらない。こっちも好きで助けたわけじゃないからな」
「は、はぁ……。それと、ちょっと訊きたいんですけど……。バニラくんのことも、助けてくれるんですか?」




