#46
すると銃撃が止み、すでに近づいていたスパイシー·インクの社員たちが一斉にバニラへと向かって来る。
ライオットシールドを突き出し、警棒を構えた数十人の集団が、まるで歴史に出てくる中国の軍勢のように陣を組んで周囲を固め始めた。
その集団の一人が、バニラに向かって声をかける。
「もう諦めろ。いくら子供でも、この状況で逃げられないことはわかるだろう? 大人しく我々に捕まれば、残ったお前たちの命は保証する」
できる限り刺激しないように、静かに投降を進める言葉。
いくら拳銃を発砲するようなスパイシー·インクとはいえ、さすがは警備会社である。
もう抵抗する意味はないと、バニラを説得し始めた。
だが、バニラにその男の言葉は聞こえていなかった。
いや、たしかに彼の耳には入っているのだが。
バニラにとっては、男の説得こそ意味がなかった。
「さあ、両手を上げてこちらへ来るんだ」
それでも男は言葉を続けていたが。
次の瞬間に、周囲にいた社員たちと共に吹き飛ばされてしまう。
それはバニラが一瞬で集団との距離を詰め、体当たりをかましたからだった。
前方にいた集団をライオットシールドごと吹き飛したのよかったが。
左右から他の社員たちが襲い掛かって来る。
「これを全部倒すのか。面倒だな……」
ボソッと呟いたバニラは向かって来る集団の中に飛び込み、凄まじい速度で動き回る。
彼に警棒を振れば味方に当たり、捕らえようとすれば手や頭が飛んで来る。
圧倒的なスピードで敵を翻弄するバニラ。
だが、スパイシー·インクの社員たちも馬鹿ではない。
どんなに常人を超える動きを見せていても、彼らは警備会社の社員――プロフェッショナルだ。
ただ考えなしで暴れるだけの少年如きに、いつまでも良いようにされているはずもなかった。
数の暴力ともいえる戦法で、強引にバニラの動きを封じることに成功する。
「これは……ヤバいな……」
無数のライオットシールドに押し付けられ、アスファルトの地面を舐めさせられたバニラは、それでも動揺することなく、まだ押し返そうとしていた。
ここまでされても抵抗を止めない少年に、スパイシー·インクの社員たちは容赦なく全体重をかけていく。
「ヤバいじゃんもうッ! あいつも使えないなッ! まあいい、もうちょっとだけ時間かせげよ。モカッ!」
ストロベリーは、バニラが無力化されかけている状況を見ると、モカに声をかけて今のうちにこの場から逃げ出そうと言う。
「あいつが完全に捕まる前に、あたしたちだけでも逃げるよッ!」
「で、でも……それじゃ、バニラくんが……」
「いいんだよッ! あいつはあたしらを助けるために暴れてんだ! ここであたしらも一緒に捕まるほうがあいつもヤダだろッ!?」
「で、でも……」
「あぁぁぁッ! もういいッ! あたしだけでも逃げるから。アンタはあいつと捕まればいい」
ストロベリーは、またも仲間を置いて自分だけでも逃げようとトラックの陰から出ようとする。
だが、そんな彼女とモカの目の前に警備服姿の集団――スパイシー·インクの社員たちが現れた。




