#41
それから侵入者を仕留めようと、スパイシー·インクの社員たちがバニラに襲い掛かった。
だがトランス·シェイクを飲み、身体能力が向上したバニラを止めるには、屋内での戦闘は彼らにとって不利だった。
「撃てッ!」
拳銃を一斉に構え、侵入者の少年に向かって弾丸を撃って無力化しようとしても、なんなく避けられてしまう。
左右を囲む壁や天井を蹴り、建物内を縦横無尽に動き回るバニラのことを捕えられないのだ。
スパイシー·インク側は多勢に拳銃――。
どう見ても有利なのだが。
狭い屋内では射撃方向が限られ、同士討ちの可能性が高まる。
さらにトランス·シェイクを飲んだバニラにとって、壁や天井は地面とそう変わらないため、彼らが社員研修で学んだ屋内戦のマニュアルが役に立たないのだ。
それでも、けしてバニラが弾丸よりも早く動けるわけではない。
だが、これまで対峙したことのない化け物を相手に、スパイシー·インクの社員たちは浮足立ってしまっていた。
「なんなんだよ……なんなんだよこの子供はッ!?」
あり得ない動きで――。
あり得ない速度と力で――。
スパイシー·インクの社員たちを殺していくバニラ。
まだ必死で応戦する者も、すでに戦意を失っている者も含めた血が、彼の進む建物内を真っ赤に染めていく。
「うるさいな。声がデカいんだよ」
倒れた社員が恐怖で声を張り上げると、バニラは鬱陶しそうに男の顔を蹴り飛ばした。
その衝撃で男の首の骨が折れ、まるで高いところからぶら下がったてるてる坊主のように左右に揺れている。
バニラは侵入したフロアの人間をすべて始末し、ストロベリーたちを見つけるために階段やエレベーターを探していると――。
「バニラッ!」
彼と同じく、全身に刺青のような模様が浮かび上がっているサニーナップが奥の廊下から走ってきた。
その後ろにはストロベリーとモカもおり、どうやら三人は、自力でスパイシー·インクのビルから脱出しようとしていたようだ。
「なんだ、オレいらなかったね」
「そ、そんなことないよ」
モカが笑みを浮かべてバニラにそう言ったが。
ストロベリーは彼女とは逆に、凄まじい形相で彼に突っかかる。
「遅いんだよバカッ! 今までなにしてたんだよッ!? あたしがこんな怖い目に遭っていたのにさッ!」
「……オレのせいかな、それ? まあいいや。外でロッキーロードが待ってる。早く出よう」
だがバニラはそんなストロベリーのことなどまったく相手にせず、スパイシー·インクの社員たちの死体が転がる廊下を歩き出した。




