#37
サニーナップが自分の考えを言うに――。
ここはひとまず自分だけ脱出し、ロッキーロードのもとへ報せにいくというものだった。
彼の言い分では、いくらトランス・シェイクで身体能力を向上させても、ストロベリーとモカ二人を連れての脱出は難しい。
ならばここは自分だけでも逃げ、ロッキーロードに助けを求め、その後にバニラ、ダークレートなどを引き連れて助けに来たほうが良いのではないか――。
サニーナップなりに、皆が助かる方法を考えたのだろう。
たしかにトランス・シェイクを飲めば、この場を脱出することは難しくない。
鉄格子を腕力で引き千切り、何人のスパイシー・インクの社員が掛かって来ようと物の数ではない。
しかし、相手は拳銃を持っている。
頭や心臓を撃たれればトランス・シェイクを飲んでいても死ぬ。
サニーナップの考えに、モカはその通りだと納得していた。
ドリンクは一つだけ。
つまりはトランス・シェイクの力を持つサニーナップが、足手まとい自分たち二人を連れて逃げるよりも、彼一人で脱出して助けを呼んだほうが助かる確率は高いと、彼女も思った。
だが、ストロベリーは違った。
彼女は承知するどころか、まるで目の前で両親を殺されたかのように、烈火の如く怒り狂う。
「なにいってんのよアンタッ!? そんなのダメに決まってんじゃないッ!」
「だけどよぉ。そのほうが全員助かる可能性が高いだろ? ドリンクなしのお前らを連れて逃げるのは、さすがにキツいって」
「はぁッ!? そんなのアンタの頑張り次第じゃんッ!? 情けないこと言ってないで、俺がお前を必ず助けるとか言えないわけッ!?」
「それは……面目ねぇけど……」
「それにもしアンタが逃げるときにやられちゃったらッ!? もしアンタが助けを呼びにいってる間にあたしが殺されちゃったらッ!? どうすんだよッ!? それじゃ助からないじゃんッ!?」
サニーナップの提案が穴だらけだと責め続けるストロベリー。
言われっぱなしのサニーナップは、彼女のあまりの激しい叱責に、もはや言い返す気力すら失ってしまっている。
当然モカのほうも口など出せない状態だ。
ストロベリーは気が張れるまで喚き続けると、サニーナップに命令するかのように言う。
「もういいから、さっさとここから出しなさいよ」
「いや、だから三人じゃ……」
「あん? なにアンタ、あたしにモンクがあんの? いいからあたしの言う通りにしろ」
互いに牢屋に入っていて、顔も合わせていないのに――。
サニーナップは俯いて、身を震わせている。
そんな彼に止めを刺すかのように、ストロベリーが言葉を続ける。
「やらしてやったろ? いいから早くこっから出してッ!」
そう言われたサニーナップは、ポケットからドリンクボトルを取り出し、トランス·シェイクを一気に飲んだ。




