#35
――バニラがロッキーロードの共にマンションを出た頃。
ダークレートはクリムの家で朝食を食べ終え、ボケッとインターネットの動画サイトを流し見ていた。
彼女と一緒にいる小熊のカカオは、お腹が満たされたせいなのか。
クリムの部屋にある医療用ベットで横になって眠っている。
そんなスヤスヤと寝ているカカオのことを撫でながら、ダークレートが動画を適当に見ていると、その画面によく知る店が映し出された。
それは彼女が働いているスイーツ&バーであるホワイト·リキッド三号店だった。
誰か一般人が撮影したものなのだろうその映像には、店から出てくるスパイシー·インクの面々が映し出されている。
「こ、これって……まさか昨日のことが……?」
呟くようにそう言ったダークレート。
彼女は腰かけていた医療用ベットから立ち上がると、傍にいたクリムが声をかけてくる。
「待て、今は下手に動かないほうがいいよ」
自前のベリーショートヘアを手で払い、煙草をふかしながらそう言うクリム。
ダークレートが立ったままクリムのほうを見ると、彼女は言葉を続けた。
事情はわからないが。
ダークレートが働いている店に、スパイシー·インクが踏み込んだ。
それを考えれば、おそらく従業員にどんな人間がいるかも把握されている可能性は高い。
そうなると、この人工島テイスト·アイランド中を、スパイシー·インクの連中が血眼になって関わっている者を捜しているはず。
――と、クリムはダークレートに、今はここから動かないほうがいい理由を説明する。
「お前が何をやったのか、あの店がどうしてスパイシー·インクに目を付けられたのかに興味はない。だがここで飛び出されて、明日の朝にどこぞで死体になって発見されたり、行方不明なったりされたら目覚めが悪くなる」
「で、でも……」
「いいからここでじっとしていろ。スパイシー·インクの連中も、わざわざスラムの藪医者のところまでは捜しに来ないだろうからな」
クリムは口から紫煙を吐き出すと、マグカップに入ったコーヒーを飲み干した。
ダークレートは渋々医療用ベットに座ると、寝ているカカオを抱きしめる。
両手でガッチリと抱え、不安そうな顔をしている彼女を見たクリムは、「はぁー」とため息をつくと、キッチンへと向かった。
「落ち着かないならコーヒーでも入れてやる」
「うん……ありがと……」
俯くダークレートに、クリムはコーヒーを持ってきた。
ダークレートは渡されたマグカップに口を付けて飲み始めると、激しく顔を歪めて言う。
「マズッ!? 苦ッ!?」
「お前にはまだ早かったか? やっぱりまだまだ子供だな」
「大人とか子供とか関係ないじゃんッ! おいしくないもんはおいしくないもんッ!」
「ブラックコーヒーは大人の嗜むもんだ。まあ、無理して飲むようなもんでもないが……。ここにある砂糖とミルクを入れてみな。そうすりゃ子供のお前にも飲みやすくなる」
「わたし……子供じゃないんもん……。コーヒーがマズくて苦いだけだもん……。でも、砂糖とミルクは入れる……」
ダークレートはブツブツとそう言いながら、コーヒーと一緒にクリムが持ってきた砂糖とミルクを、マグカップにタップリと入れた。




