#3
そう叫んだストロベリーを先頭にバニラたちもナイトクラブのあるビルへと入って行く。
すでに今夜のイベントが始まっているのだろう、人気はなく、防音扉の奥からは中で鳴り響いている重低音が外まで漏れていた。
防音扉の前には受付があり、そこにはスーツ姿の屈強な私設警備員が二人立っている。
彼らは中へ入ろうとするストロベリーの前に立つと、身分証明書の提示を願い出る。
「あん? 身分証明書? そっかじゃあ――ッ!」
ストロベリーは、そう言いながら目の前に立つ私設警備員を殴り飛ばした。
まだ十代――。
成長期である彼女の小柄な体格ではあり得ないが。
プロレスラーのような警備員がその一撃で沈む。
何が起きたと、もう一人の警備員がストロベリーを取り押さえようと手を伸ばす。
だが、そんな彼もまたストロベリーにローキックで足を蹴られ、あまりの痛さに怯んでしまう。
「うがが……。あ、足が……」
「たぶん折れたんじゃね? はい、身分証明書」
ストロベリーはニカッと歯を見せながら、自分の足を押さえている警備員のこめかみを拳で打ち抜く。
先ほどと同じく警備員の巨体が吹き飛び、彼の身体はビルの壁に叩きつけられた。
死んではいないと思われるが。
動かなくなった彼もまた、もうストロベリーたちを止めることはできない。
「ハハハッ! ガタイがいいからってイキってんじゃねぇぞッ! じゃあ、中に入ったら適当にターゲットを捜すぞ~」
「ま、待ってストロベリーちゃん……」
倒れている警備員を足で小突きながら高笑っていたストロベリーに、モカが言いづらそうに声をかけた。
自分を否定されたとでも思ったのか。
ストロベリーの顔が強張る。
「あん? なに? なんかあたしにモンクでもあるわけ?」
「ち、ちがくて……。あの……たぶんだけど……ターゲットはVIPルームにいるんじゃないかなって……」
機嫌をうかがいながら自分の意見を言ったモカ。
ストロベリーはそんな彼女に近づいていく。
「ご、ごめんなさいッ! わたしは別にストロベリーちゃんに文句なんてなくて、ただッ!」
殴られると思ったモカは両目を瞑って身構えた。
だが、ストロベリーはそんな彼女に手を出したりせずに優しく抱き寄せる。
「さっすがあたしの親友だよモカッ! あったまいい~ッ!」
そして、まるで猫でも可愛がるように彼女の顎の下を撫で始める。
そんなストロベリーを見てホッと胸を撫で下ろすサニーナップ。
一方でダークレートはため息をつき、バニラのほうは何も言うことなく静観していた。
「よしッ! 狙いはVIPルームだッ! あたしの作戦通りいくぞッ!」
「アンタの考えたことじゃないでしょ……」
「あん? なんか言った?」
ダークレートが口を出すと、ストロベリーは彼女のことを睨みつけた。
だが、外のときと同じようにサニーナップとモカが止めると、ストロベリーはチッと舌打ちをしてダークレートから視線を外す。
「仕事中だから、聞かなかったことにしてあげる。だけど、次はないからね」
「そりゃどうも。気をつけるよ」
ダークレートがそう返事をすると、ストロベリーは倒れている警備員を蹴り退かして防音扉を開いた。