#28
その後に甲高い悲鳴がフロア内に聞こえ始め、女性客たちが叫びながら逃げ回り始める。
中にはどうしていいのかわからず、並んだ箱型のルームから顔だけを出し、口を開きっぱなしにして動揺している者もいた。
ストロベリーとモカは互いに顔を見合わせる。
「ス、ストロベリーちゃん……。これって……?」
心配そうに声をかけてくるモカを見たストロベリーは、チッと舌打ちをした。
モカもまた他のルームにいる女性客と同じようにその身を震わせ、今にも腰を抜かしてしまいそうなほど怯えている。
その間に、聞こえていた女性客の悲鳴がさらに大きくなり、銃声が近づいて来た。
身の危険を感じたストロベリーは、現状は把握できないが、とりあえずこの場から逃げ出そうとモカの肩をバシッと叩く。
「なんだかよくわかんないけど、あたしらも逃げるよ、モカッ!」
「でも、わたし……さっきから足が震えちゃって……」
「そんなこといってる場合かッ! 無差別殺人犯かどっかの殺し屋かわかんないけど、ともかく今は逃げないと殺されちゃうよッ!」
モカに発破をかけて走り出すストロベリー。
一方のモカは、動けずにその場にヘナヘナと座り込んでしまっていた。
「待って……待ってよストロベリーちゃん。わ、わたし……腰が……コシ腰ッ……コシぬけちゃ……。コシがッ……」
動けないモカなど置いていき、ストロベリーはフロア内を駆け出していく。
この人工島テイスト·アイランドでは、警備会社を業務を主とするレカースイラー率いるスパイシー・インクが島のすべてを仕切っている。
市政や警察は無くなり、彼らの組織が法律であるといっていい状態だ。
さらに貿易が制限されているため、島に銃火器のような武器は入って来ないが。
スパイシー·インクの人間だけが銃やその他のインフラ設備を管理し、またはその所持を許されている。
それを考えれば、当然この女性フロアに侵入してきたのはスパイシー·インクの人間だろう。
普段はこんな無茶なことなどしないが。
昨夜にナイトクラブを襲撃したストロベリーとモカを狙って来たと考えれば合点がいく。
だが、ストロベリーにはそんなことすら理解できない。
銃を撃ちながら侵入してきた者がスパイシー·インクなのかなど考えず、ただ身の危険を回避するために逃げているだけだ。
しかも、普段から親友だと口にしている仲間を置いて。
「ヤバいヤバいッこれヤバいって! クッソッ! マジでついてねぇなッ!」
ストロベリーは他の女性客を押しのけて非常口へと走る。
逃げていて慌てて転んだ者を踏みつけ、置いていったモカのことも、このカプセルホテルの男性専用フロアにいるはずのサニーナップのことも忘れて必死に駆け出していった。
「どけどけッ! ジャマだババアどもッ! あたしのジャマすんなら殺すよマジでッ!」




