#20
――ホワイト・リキッド三号店から出たジェラートとマチャは、車に乗って街の中を進んでいた。
ハンドルを握って車を運転するのはもちろんマチャだ。
ジェラートのほうは助手席ではなく、マチャの真後ろの後部座席に座っている。
「さすがに人も減ってるね」
ジェラートが窓から外を見て、マチャにそう声をかけた。
街には、彼女たちが店に向かうときに見かけた通学中の学生たちや、会社へ行く労働者たちの姿はなく閑散としている。
スパイシー・インクがこの人工島テイスト・アイランドを仕切るようになってからは、どこでも見られる光景だ。
だが、ひと度裏通りに入れば、まだ午前中だというのに路上で寝ている者も多い。
まともな生活を手に入れている人間と、明日には飢え死にしかねない人間が暮らす社会。
前者はスパイシー・インク系列の警備会社によって安全を保証され、後者は家もないまま治安の悪いスラムで路上生活を強いられる。
スラム認定されている地域では――。
・保護者のいない子供
・社会のレールから外れた大人
・税金の払えない高齢者
などがその日暮らしや犯罪をして暮らしている。
スパイシー·インクがティスト·アイランドを仕切る以前は、誰もが貧困に喘ぐ状態ではあったが。
ここまでの貧富の差はなかった。
マチャはハンドルを握りながらそんな島の現状を憂い、表情をしかめる。
「どうバニラは? うまくやっていけそう?」
そんな彼女の表情が見えないジェラートは、いつもの調子で声をかけた。
声をかけられたマチャは、苛立ちを隠そうと一呼吸おいてから彼女に答える。
「あれはダメですね。昼の仕事でも夜の仕事でも使えそうにありません」
「そう? 彼、これまで雇ってきた子の中では、断トツで真面目なんだけどなぁ」
ふ~むと声を漏らしたジェラートに、マチャはどうしてバニラが仕事に向いていないのかを話し始めた。
まず昼の仕事である、マチャがジェラートに任されているスイーツ&バーホワイト·リキッドでの仕事に関して――。
ろくに風呂にも入っておらず体臭がきつく、身なりも薄汚れていて清潔感が皆無。
さらに接客も、あの態度から期待できそうにない。
そして、夜の仕事であるスパイシー·インクに関わる者たちへの襲撃に関して――。
バニラは未成年者のため、飲めば凄まじい力を得られるドリンク――トランス·シェイクが使用できるが。
肝心な場面であっけなく捕まるか、命を落とすタイプ。
背中を預けている間に死なれたら仕事にならないどころか、こちらの敗北の原因になりかねない。
「あいつがいらない理由は、今の説明で納得してもらえると思いますけど」
マチャがそう言うと、ジェラートは運転する彼女の背中を見ながら微笑んだ。




