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#200

完全にマチャを抑え込んだバニラだったが。


突然刃物で斬られたような痛みを感じて(ひる)んでしまう。


それは、マチャが握っていたナイフで彼を馬乗りの状態から斬りつけたからだった。


その痛みで怯んだ(すき)を見逃さず、強引にブリッジで身体を浮かせてバニラのことを蹴り飛ばした。


「くッ!? マチャッ!!」


マチャは馬乗りの状態から脱出すると、すぐに立ち上がって向かって来るバニラへ回し蹴りを喰らわす。


吹き飛ばされ、目の前にあったアパートの壁に突き刺さったバニラは、そのまま壁を突き付けて半壊した瓦礫(がれき)に埋もれてしまう。


アパートにいた住民たちが何事だと部屋から出てくる。


マチャは目の前に現れた住民たちへナイフを振るおうとした。


「なッバカ!? なにやってんだよッ!!」


だが、すぐに立ち上がったバニラが彼女へと飛び掛かる。


それは住民たちを守ろうというよりは、マチャにそんなことをさせないようにしているようだった。


マチャと取っ組み合ったバニラが叫ぶ。


「なにしようとしてんだよッ!? お前は島を良くしようとしてただろッ!? 正義に燃える警察官だったんだろッ!? なのになんで殺そうとしてんだよッ!?」


バニラはマチャの手から強引にナイフを奪おうとする。


トランス·シェイクで得た身体能力向上の力を振り絞って、彼女に関係のない人間を殺させないようにする。


それでも、ナイフを失ってもまだ、マチャは人を殺すことを止めない。


バニラの眼球を繰り抜こうと、手をその顔に伸ばす。


「ダメ……なのかよ……? お前は……もうオレが知ってるマチャじゃねぇのかよッ!?」


歯を食い縛り、泣きながらその手を止めるバニラ。


二人が互いに動けずにいたとき、先ほど吹き飛ばされたカカオがマチャの足に噛みつく。


バランスを崩した彼女に、バニラは頭突きを喰らわせ、先ほど彼女が放った技――回し蹴りをその顔面に叩き込む。


足をカカオに噛まれ、固定されていたマチャはそのまま不格好に倒れた。


「マチャ……。ゴメン……」


バニラはマチャが態勢を立て直す前に、側にあったコンクリートブロックを両手に持ってその頭へ思いっきり振るった。


潰れた頭から脳漿(のうしょう)が飛び出し、その肉片が血と共に飛び散っていく。


その様子は、彼女の緑色の髪も相まって、まるでケチャップを大量にかけられたロールキャベツのようになっていた。


マチャは動かなくなった。


ピクリとも動かずに、完全に沈黙。


頭部を失ったその死体は、緑色の髪がなければ彼女だとわからないほど凄惨(せいさん)なものになってしまった。


バニラは自分がマチャを殺したことが受け止められないのか。


流れていた涙すら止まり、その場で両膝をついていた。


そして放心状態のまま、バニラは彼女の頭から飛び出した脳漿や肉片を、必死でかき集めて元に戻そうとする。


「ゴメン……ゴメン……」


微かに漏れる謝罪の言葉。


マチャが生き返るとでも思っているのか。


バニラはその行為を止めない。


カカオはそんな彼の姿を見ながら、止めるでもなくただ寂しそうに鳴き続けていた。

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