#199
血塗れになって殴られ続けるバニラ。
馬乗りになってただ拳を振るうマチャだったが、突然その手が止まった。
バニラはやっとわかってもらえたかと、腫れ上がった瞼を開いてマチャを見ると、小熊のカカオが彼女の腕に噛みついていた。
その小さな口で必死にマチャを止めようと喰らいついているカカオだったが。
まるで虫でも払うように、簡単に吹き飛ばされてしまう。
「カカオ……」
マチャはバニラに馬乗りになっていた状態から立ち上がって、吹き飛ばしたカカオのほうへと向かっていく。
先に邪魔をする小熊を始末しようとしているのか、ポケットに入れていたナイフを手に取った。
そして、それを握って再び自分に向かって吠えている小熊に、その刃を突き付けようとしていた。
「やめろ……やめろよ……。カカオに手を出すなよぉ……」
バニラは悲願するように声を出すが、マチャは止まってはくれない。
これは不味いと思ったのか、バニラはふらつきながらも立ち上がり、マチャへと声を張り上げる。
「やめろぉぉぉッ!!」
そして、背後をから彼女へと飛び掛かった。
羽交い絞めのように押さえつけ、その耳元に向かって叫び続ける。
「カカオは何も悪くないだろッ!? 悪いのはオレだけだッ! わかんねぇのかよマチャッ!?」
しかし、マチャはやはり答えない。
喉が潰れるほど叫び続ける白髪の少年の言葉は届いていない。
マチャは抑え込んできたバニラの手を振りほどき、変わらぬ虚ろな表情のままで標的を彼へと戻す。
握っていたナイフの刃を突き立てる。
これをなんとか躱したバニラは、ついに彼女に向かって手を出した。
悲しみを帯びた拳が彼女の頬に突き刺さり、アパートの側にあったブロック塀を突き破って吹き飛んでいく。
「聞けッ! 聞いてくれマチャッ!」
バニラはそう叫びながら倒れているマチャに馬乗りになった。
先ほどと立場が逆転。
今度はバニラがマウントポジションを取る。
だが、バニラは手を出さないようにガッチリとマチャの動きを封じて、その腫れ上がった顔を彼女の顔に近づける。
「なにかあったんなら話してくれッ!」
ポタポタと両目から落ちるバニラの涙が、マチャの頬を濡らす。
泣きながら言葉を吐き、押さえ込んでいるというよりは、まるですがるようにマチャの身体に密着する。
「オレ……バカだから……ちゃんと話してくれないとわかんねぇんだよぉ……。知ってるだろ……?」
そして、自分の気持ちを吐露する。
自分を殴り殺そうとしていた相手に向かって、泣きながら言葉を求める。
それでもマチャの表情に変化はない。
ただ人形のような無表情で、泣いているバニラを見ているだけだった。




