#194
それからバニラはクリムの家を出た。
カカオの食事を作るためだと言って小熊を抱いて去って行く彼に、彼女はもう何も言うことができなかった。
それから、バニラは夕食の食材を買いに行こうと店を探すが。
荒廃し、そこら中で騒ぎ声が聞こえる街でスーパーマーケットがやっているはずもなく、彼は適当に見つけた店に入り、まだ棚に残っている物に手を伸ばす。
フラフラとまるでゾンビのようにカゴに食材を入れていくバニラに、カカオが鳴く。
「うん? あぁ、大丈夫だよカカオ。金は持ってるから」
カカオは「そんなことを言いたいわけじゃないんだけど」言いたそうに弱々しく「ガウゥ……」と鳴くと、なくなく誰もいないレジへと歩くバニラについて行った。
「えーと、豚の角煮が366でシーチキン三つで338だから……」
ポケットから財布を出し、棚から取った大量の缶詰めの値段を計算するバニラ。
どうやら小銭が足りないらしく、お札を置いて店を出て行く。
「今日は多めに出したから、明日はサービスしてもらおうな」
店を出たバニラは、袋に詰めた缶詰めを持ってカカオにそう言った。
カカオは何を答えればいいのかわからないようで、困った顔を彼に向けていた。
そのとき、突然バニラの前に三人の男が立ちはだかった。
バニラはどうでもよさそうに彼らへと声をかける。
「ジャマなんだけど……」
三人の男は、フンッと鼻を鳴らすとバニラに向かって握っていたナイフを突きつける。
それから脅し文句を喚き始め、バニラの持っている缶詰めを置いていくように言ってきた。
バニラはそこの店にまだたくさん缶詰めがあることを彼らに伝えたが、男たちは興奮した様子で笑い、けして道をあけてくれない。
「初めて絡まれた……。ったく、メンド―だな……。カカオ、ちょっと待ってて」
バニラはカカオに下がるように声をかけると、持っていた缶詰めの袋を地面に置いた。
そして、拳を握って三人の男たちへと向かっていく。
男たちはバニラがまさか自分たちに逆らうつもりなのかと笑っていた。
だが次の瞬間に、そのうちの一人がバニラにぶん殴られた。
その一撃で沈んだ仲間を見て、残った二人は後退り、悲鳴をあげながら走り去っていく。
「あんなのが増えると、食材を買いに行くのも大変になるなぁ……。なあ、カカオ……」
バニラは再び缶詰めの入った袋を手に取り、カカオに声をかけた。
呆れた顔をしていた彼だったが、次第に無表情へと変わっていく。
「大変になるって……。なに言ってんだろ、オレ……。こんな状況で……イカれてんのかよぉ……」
その場に両膝をつき、バニラはそう呟いた。
カカオはそんなバニラへと近寄り、自分の頭を彼の身体に擦りつけるのだった。




