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#191

自堕落な日々を過ごすバニラにもやることがあった。


入院しているストロベリーへのお見舞いだ。


だが面会謝絶となっている彼女とは顔を合わすことはできず、ただ病院へ行ってはいつ会えるのかを訊ねるだけだった。


「なあ、カカオ。いつストロベリーは元気になるんだろうなぁ」


バニラは病院からの帰り道で、いつも同じことをカカオに訊ねる。


その度に、カカオは彼を励ますように元気に鳴き返す。


このやり取りは、もはや彼らの習慣となっていた。


「お前がいてよかったよ。一人だったらオレ……」


寂しそうに笑うバニラとは裏腹に、支配者を失ったテイスト·アイランドは今日もカオス状態だった。


そこら中で火災が起き、以前なら見られた子供連れの家族はもちろん、女性も誰一人出歩いてはいない。


街にあった店は窓ガラスが割れていないところを探すほうが難しく、その光景を見るに、スパイシー·インクという組織は島の秩序に必要だったのだと思わせるには十分だった。


みすぼらしい格好をしてるせいか。


バニラはスラム街の住人と見られ、島で暴れている人間たちに襲われることはなかった。


もし彼が身なりの良い姿をしていれば、街を歩いているだけで身ぐるみを剥がされたことだろう。


島の一部では、まだ安心して生活できるところが残っているようだが。


もはや誰もこの状態を止められない。


狂気に満ちたテイスト·アイランドがこのまま滅んでいくことは、誰の目にも明らかだった。


「オレたちは……何がしたかったんだろう……」


そんな街の中を、トボトボと肩を落として歩くバニラは思う。


マチャを始めとし、ホワイト·リキッドの従業員たちは皆、島を良くしたくてスパイシー·インクの壊滅させたはずなのに。


現状は以前よりもずっと酷い状態になっていた。


ホワイト·リキッドは正しかったのか。


それともスパイシー·インクのほうが正しい組織だったのか。


いくら考えてみても、その答えは出なかった。


ただ誰がこの島を仕切ろうが、どこかしら不満は出るし、誰もが納得する世界など創れないのだろうとバニラは(にぶ)い頭で考えていた。


適当に歩を進めていた彼は、気が付けばスラム街があった場所へと向かっていた。


スラム街とはいっても、今はもう島のほぼ全域が無法地帯なので、その光景に代わり映えはない。


「ジェラートさんはどこにいるんだろう……? あれから連絡もないし、電話しても出てくれないし……。あぁ……ジェラートさんに会いたいな……。なあ、カカオ……」


後ろをついて来るカカオにそう声をかけたバニラ。


すると、カカオは突然走り出した。


バニラに向かって大きく鳴きながら走る小熊は、まるで彼をどこかへ連れて行こうとしているようだ。


「おい、どうしたんだよ急に? あッ! だから待てってばッ!? 危ないだろッ!? 捕まって食われちまうぞッ!」


カカオが何故いきなり走り出したのかわからないバニラは、必死で小熊を追いかけた。

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