#190
ホワイト·リキッド全従業員でのスパイシー·タワー襲撃後――。
人工島テイスト·アイランドの支配者であったレカースイラーは、バニラたち少年少女の活躍によって殺された。
この出来事によって、ついにジェラートに従っていた人間すべての願いであったスパイシー·インクは壊滅。
頭を失った警備会社は組織を維持できなくなり、島は大混乱に陥っていく。
そんな狂騒とは関係なく、先の襲撃によってホワイト·リキッドの人間もほとんどが死亡。
生き残ったのは、バニラ、ストロベリー、モカなど数人だけだった。
結果として、スパイシー·インクとホワイト·リキッドの共倒れとなったといっていい状況だ。
「しばらくはゆっくりしていてね」
病院に運び込まれたバニラは、ジェラートにそう言われ、彼女が借りてくれた部屋でこれからは小熊のカカオと暮らすことになった。
ストロベリーのほうは怪我がかなり酷かったため、退院するのにはまだまだ時間が掛かるそうだ。
「マチャも……死んだんですか?」
襲撃時に姿が見えなかったマチャのことを、ジェラートに訊ねたバニラ。
彼女の話によると、戦場となった高層ビルでマチャの死体は見つからなかったようだ。
それはマチャだけでなく、他にも多くの敵や味方の死体が確認できないものが多く、おそらくマチャは死んでいると聞かされた。
「残念だけど、もう彼女は死んでいると思うよ」
「……そうですか」
それからジェラートの計らいで、マチャが残した貯金を受け取ったバニラは、ただその日その日をなんとなく過ごした。
「ほら、カカオ。メシだぞ」
マチャやダークレートのおかげで料理を覚えたバニラは、ホワイトソースから手作りするカニクリームコロッケやエンチラーダが働いていた店で食べたポソレスープなどを作った。
他にも、とても十代の少年が作れない料理を覚えてはカカオと共に食べた。
それ以外では、スナック菓子やチョコレート、アイスクリームなどを好きなだけ食べ、マチャからあまりやり過ぎるなと言われていた骨董品ともいえるTVゲームをしていた。
さらに弾きもしないアコースティックギターを購入し、買った次の日からケースに入れっぱなしで、それは部屋のインテリアと化す。
時間と金だけはあるので、バニラはこれを機会に何か新しいことを始めようとした。
だが、いくら考えてみても彼にはやりたいことがなかった。
料理はそれなりに楽しかったが。
それはダークレートやストロベリー、マチャがいたからだ。
音楽は演奏できても、一緒に音を奏でる相手――大好きだったエンチラーダの歌声とギターの旋律は聴こえない。
バニラはやりたいことや楽しいことは、すべて他人がいたからこそだったと、自分の空虚さに悲しさを覚えていた。
「オレって……誰かいないとダメだったんだな……」
唯一傍にいる小熊に向かって声を掛け、自嘲するバニラ。
カカオをそんなバニラに抱かれながら、まるで彼を慰めるように鳴いた。




