#187
鈍い音と共に、ダークレートの首があり得ない方向へと曲がっている。
それはまるで壊れたマリオネットを思わせ、彼女の命が失われたことを実感させた。
「ダーク……レート……。うぅ……うわぁぁぁッ!!」
バニラは我も忘れて喚き出した。
自分でもここまで心が乱させるとは思ってもみなかった彼だったが。
今は何も考えられず、ただその場で死体となったダークレートを見つめて泣き叫び続けている。
「見苦しい……。さっさと殺すか」
レカースイラーはフンッと鼻を鳴らすし、冷静に辺りを見回す。
襲撃者は三人。
そのうちの一人黒髪の少女は仕留めた。
あとは赤毛の少女と白髪の少年だが。
赤毛の少女――ストロベリーのほうは、日本刀が腹部に突き刺さったまま倒れている。
まだ息はありそうだが、もう戦うことは不可能。
長い経験からか、流れる出血や少女の顔色を見れば、レカースイラーにはそれが理解できた。
だとすると、先に仕留めるべきは白髪の少年――バニラだ。
刀傷は思ったよりも深くなかったのか。
その傷のうえから水月打ちを喰らわせたというのに、バニラはまだ泣き叫ぶほどの元気が残っている。
まだ立ち上がって向かって来る可能性は十分にある。
そう判断したレカースイラーは、バニラに止めを刺そうとしたとき、彼の持っていたスマートフォンが鳴り出した。
けたたましく鳴り続けるスマートフォンを手に取ったレカースイラーは、その画面に出ている名前を見て顔をしかめる。
「ジェラート……」
そして電話に出ると、表記された名前の人物――このスパイシー·インクの高層ビル――スパイシー・タワー襲撃の主犯であるジェラートの声が聞こえてくる。
《は~い。今、どんな感じ?》
まるで友人のように声をかけてきたジェラートに、レカースイラーは無感情に返事をする。
「よく連絡などできたな。相変わらずわからん女だ」
《そう? 自分ではわかりやすいタイプだと思っているけど。それよりもどうなってるかを聞かせてよ》
もっともなことを言ったレカースイラーに、ジェラートは訊ね続ける。
自分の送った少年少女はどうなったのか。
そろそろ決着がついたと思って電話をかけてみたのだと、無邪気な声を出していた。
レカースイラーは答える。
主犯のくせに連絡をして来たジェラートのことを、無神経を通り越して頭がおかしいと思いながらも、屋上へとやってきたバニラたちのことを話して聞かせる。
「黒髪はたった今始末した。赤毛のほうは腹に日本刀を刺して動けず、白髪は死んだ黒髪を見て泣き叫んでいる。聞こえるだろう、喚く声が」
《あらら、ダークレートは殺されちゃったんだ。ま、あの子はどうせドリンクを飲んでないんだろうから当然だけどね。それよりもバニラがそんなになっちゃうなんて、正直驚いちゃうね》
ダークレートの死に何も感じていないジェラートに、レカースイラーはフンッと鼻を鳴らすして言う。
「残念だったな。お前の計画は失敗だ。身体能力は私よりも上だったが、こんな未熟者らでは私は殺せん」
レカースイラーがそう言うと、ジェラートは突然笑い始めた。
電話越しからでも彼女が腹を抱えているの目に浮かぶほどの、演技ではない笑い声だ。
「何がおかしい?」
《だって、あなたが私の計画をはき違えているんだもの》
「では、お前の計画とはなんだ?」
怒気のこもった声で訊ねたレカースイラー。
ジェラートは笑いを止めて口を開く。




