#186
バニラはすぐにダークレートを助けようとしたが。
先ほど刀を奪われて斬られた上半身の傷が深く、身体が思うように動かない。
これでは間に合わない。
そう思いながらも、身体を無理やりに動かそうとしていると――。
「ダークレートはダメッ! 殺さないでッ!!」
ストロベリーが叫びながらすでに動いていた。
レカースイラーは刀を下ろすと、武器を持つのも忘れて向かって来る赤毛の少女へと身体を向ける。
「口にする言葉から軽薄な印象があったが、意外と情に厚い人間だったか」
「うっさい白髪ッ! ダークレートはダメなんだよッ!」
ダークレートが殺されると思い、感情が昂っていたのか。
ストロベリーは涙を流しながら叫んでいた。
バニラはそんなストロベリーに唖然としながらも、すぐに彼女に続こうとする。
「そうだ、あいつの言う通り……。ダークレートはダメだ……ダメなんだよッ!」
彼もまたストロベリーと同じように武器を拾うこともなく、ダークレートの傍に立つ敵へと走った。
赤毛の少女と白髪の少年が、感情をむき出しにして駆けてくるを見て、レカースイラーが呟く。
「心の乱れで構えを忘れている。しかし、それだからこそ向かって来れるのか……」
「ブツブツなに言ってんだ白髪ッ!」
「いいからダークレートから離れろッ!」
ストロベリーとバニラが走りながら叫ぶと、レカースイラーが日本刀を構える。
「意気込みはよし。だが、それだけだ」
それから、先に飛び出してきていたストロベリーの腹部を突き刺し、日本刀ごと彼女を放り投げた。
「ストロベリーッ!? クソがぁぁぁッ!!」
自分の血で赤く染まるバニラが、返り血を浴びたレカースイラーへと拳を振り上げる。
だが届かない。
目の前にいるレカースイラーに触れることすらなく、反対に水月打ちを喰らわされてしまう。
「ガハッ!?」
「気持ちだけでは勝てんぞ。そして、実戦に次はない。お前たちはここで終わりだ」
血を吐き出して倒れるバニラから離れ、レカースイラーはダークレートのほうへと歩いて行く。
右手首を斬り落とされ、気を失っているダークレートは当然動けない。
バニラは身体の痛みに耐えながら叫ぶ。
「起きろダークレートッ! 早く逃げるんだッ!」
悲痛な叫びが屋上に虚しく響く。
すると、出入り口にいた小熊のカカオが飛び出してきていた。
「うん? なんだこの畜生は?」
カカオは歯を剥き出しにしてレカースイラーへと噛みついた。
ダークレートを守ろうと必死で右腕に喰らいつくが、レカースイラーは反対の腕でカカオの頭を握り潰すように掴み返す。
壮絶な痛みで顎の力が弱まり、口が開いてしまったカカオは、そのままゴミのように放り捨てられた。
「カカオ……」
バニラが呻く。
身体を引きずりながらレカースイラーへと近づくが、とてもじゃないが間に合わない。
もう誰もダークレートを助けられない。
「やめろ……やめてくれぇぇぇッ!」
バニラが泣きながら叫ぶのと同時に、レカースイラーはダークレートの首を踏み潰した。




