#184
ダークレートがストロベリーに耳元で囁くと、二人は突然走り出した。
特に慌てることなく、レカースイラーは走る彼女たちの背中を見ている。
「逃げるか。どうやら私の見込み違いだったようだな」
ため息をついて呆れるレカースイラー。
だが二人が出入り口ではなく、この屋上に飾ってある和風テイストのインテリアのほうへ向かっていくのを見て、その顔をしかめる。
一体何を狙っているのか。
レカースイラーはそう思いながら、ダークレートたちのことをじっと見ていると――。
「あった! あったよダークレートッ!」
「こっちもだよ! ほらバニラ! いつまで寝てんだよッ! さっさと立てってッ!」
彼女たちは、飾られていたインテリアから日本刀をそれぞれ手に取っていた。
それは、武士の甲冑の側に添えられたもので、模造刀ではなく、実際に切れる真剣だ。
ダークレートの大声で立ち上がったバニラに、ストロベリーが拾ったうちの一本の刀を彼へと放り投げる。
ガシッと受け取ったバニラはヨロヨロとふらつきながらも、鞘から日本刀を引き抜く。
「まともにやって勝てないならこいつでッ!」
「思っていたよりも重いけど、うん! 三人でしかも刀を持ってれば圧倒的に有利ッ!」
そしてダークレートもストロベリーも、バニラと同じように日本刀から鞘を抜いて声を張り上げた。
すでに屋上は陽が落ちており、暗くなったことを感知したセンサーライトが抜き身の刀を照らす。
その光を顔に当てられ、眩しそうにするレカースイラーは、日本刀を持った三人の前へと歩を進めていた。
「ほう、よく気が付いたな。だが、それは私の大事なコレクションだ。返してもらうぞ」
「向かってくる気ッ!?」
ダークレートが驚愕の声をあげると、立ち上がったバニラが彼女の横に並び、口を開く。
「フツーならバカだと思うけど……。あいつだと、当たり前に思えるから不思議だ」
「なに言ってんだよアンタ、ビビってんの? 人数もあたしらが上でおまけに刀もあるんだよ。いくらあいつが強くったってあたしらが勝つっしょ?」
ダークレートはストロベリーの言う通りだと思いながらも、全く動じないで向かって来るレカースイラーに怯えていた。
彼女たちがレカースイラーと顔を合わせ、そして戦ったのは一瞬だけだったが。
今バニラが口にしたように、この男ならたとえ日本刀を持つ敵が三人いようが、叩きのめす強さがあると感じてしまっている。
顔を強張らせまま動かないダークレートに、ストロベリーが言う。
「ダークレートッ! アンタまでビビってどうすんのッ!? いいから指示を出してよ! いつもみたいに偉そうにさッ!」
ストロベリーの言葉で我に返ったダークレートは、深く息を吸って吐くと二人へ叫ぶ。
「偉そうは余計だよ! 連携はいつもやっていたヤツで行く! バニラが正面、アタシとストロベリーが側面からだ!」




