#183
身体ごと突っ込んでくるダークレート。
レカースイラーはその意図をすぐに見抜く。
「ナイフを叩き落されないようにしたのか。なるほど、考えている。だが――」
腹部を狙ってナイフを突き刺そうとするダークレートを、レカースイラーは跳び箱を飛ぶように彼女を飛び越して背後へと回った。
そして背後へと回り、振り返ろうとしたダークレートの後頭部へ上段蹴りを喰らわす。
「ぐはッ!?」
「ダークレートッ!? あいつッ、オッサンのくせにまるでサルじゃないのッ!?」
ストロベリーが声を張り上げながらも飛び掛かる。
屈んだ態勢から下から突き上げるように拳を振るう。
彼女の動きに合わせてバニラのほうは跳躍。
足を伸ばして飛び横蹴りでレカースイラーの顔面を狙った。
「上下からの同時攻撃……。良い連携だ」
だが、レカースイラーは怯まない。
むしろ顔に深く皺を寄せながらも嬉しそうにしている。
「死ねぇぇぇッ!」
「違うな、死ぬのはお前たちだ」
レカースイラーはまず下から拳を放ったストロベリーを強引に蹴り飛ばした。
振り上げた拳が届く前に、彼女の側頭部を蹴り上げ、次に飛び蹴りで向かって来ていたバニラの攻撃を受けてそのまま投げ飛ばす。
この対応によってストロベリーはダークレートの倒されたところへと吹き飛び、バニラのほうは先ほどレカースイラーが座っていた玉座にまで飛ばされてしまう。
「くッ!? なんなんだよあのオッサンッ!? 強すぎでしょッ!?」
「力や技じゃない……。あいつは……アタシたちの攻撃にどう対処すればいいかわかってるみたいだ……」
玉座まで吹き飛ばされたバニラは、そのまま周囲に飾られていた仏像や甲冑に埋もれてしまっていたが。
ストロベリーとダークレートはすぐに立ち上がる。
だが、圧倒的な強さをみせるレカースイラーに二人は震え始めていた。
三人掛かりでも簡単にあしらわれたことに、彼女たちはどうしていいかわからなくなる。
「もう終わりか? 女をいたぶるのは好きではないが、戦うとなれば私は容赦しない」
再びゆっくりと向かってくるレカースイラー。
このままでは殺される――。
恐怖を覚えているダークレートに、ストロベリーが言う。
「ねえ、ダークレート。逃げちゃおっか」
「へッ? アンタ……こんなときになに言ってんの?」
「だって勝てないなら逃げろってマチャも言ってたじゃん。それに裏切らないだけマシでしょ?」
「マシでしょって……。はぁ……たしかに言っていたけどさぁ……」
ストロベリーの言い草に、ダークレートは呆れていた。
彼女の言い分はわかるが、ここで逃げるともうレカースイラーを倒すチャンスはない。
現状ではどう考えても最高の機会なのだ。
だが、彼女言う通りレカースイラーは強過ぎる。
三人掛かりでも圧倒されているのだから、何をどうしようと勝てる気がしない。
ここはストロベリーの言う通り逃げたほうが良いのか、ダークレートはそう考えていると――。
「ちょっと待って……。逃げる……。そうか……。ストロベリー、ちょっといい?」
「あん? あたしの提案を受け入れる気になったの?」




