#182
レカースイラーはそう言うと、眉間に皺を寄せてバニラたちへと近づいていく。
先ほどは三人の攻撃を受ける立場だったが。
今の彼は自分から仕掛けようと歩を進める。
対するバニラたちもそれぞれ身構え、向かって来るレカースイラーのことを見据えていた。
さてどうすると言わんばかりにダークレートが、口元を歪めている。
どういうカラクリがあるのかわからないが。
この白髪の初老の男は、トランス·シェイクを使用しているバニラやストロベリーのことを圧倒してみせた。
以前にスパイシー·インクの幹部であるジャークやチゲと戦ったときにも、バニラは二人に手も足も出なかったが。
それは、まだマチャから戦闘の手ほどきを受ける前――。
子供の喧嘩程度の格闘技術しかなかった頃だったからだ。
しかし今の自分たち――特にバニラとストロベリーは、しっかりとした戦闘技術を身に付け、そのうえでトランス·シェイクを使っているのだ。
それでもレカースイラーはその上をいく。
それは単に力や技では説明できない。
もっと決定的な強さを感じさせた。
(やっぱり経験ってヤツなの……? でも、それでも三人掛かりで攻めれば……)
ダークレートは思考を巡らす、レカースイラーがいくら強くともこちらは三人。
さらに自分の手には刃物――サバイバルナイフがある。
マチャとの訓練で学んだ連携を組んだ戦い方をすれば、きっと勝てるはず。
「こっちが優位なのは確かなんだから……。アンタたちッ! ちゃんとアタシに合わせてよッ!」
彼女はまるで自分に言い聞かせるように叫ぶと、サバイバルナイフを握ってレカースイラーへと飛び掛かる。
バニラとストロベリーから返事はない。
だが、動き出したダークレートに合わせて二人もレカースイラーへと走り出す。
三方向から囲むように向かって来るバニラたちに対し、レカースイラーは速度を変えることなく歩を進めていた。
先に飛び掛かったのはダークレートだ。
ダークレートはバニラやストロベリーと違い、トランス·シェイクを使用しないと決めていたことから、マチャは彼女だけ特別に自分が警察時代に覚えたナイフ格闘技術を教えていた。
ダークレートがマチャから教わった近接戦闘は銃、ナイフ、素手等の組み合わせだ。
ナイフ格闘は素手の格闘と技術的につながりが強く、ナイフの達人というのは軍隊格闘技にも通じており、そのため彼女は銃器の扱いも高いレベルにあると思っていい。
だから基本的に民間向け、兵士向けのスクールで銃器の扱いとナイフ格闘、徒手格闘を同じところで教えている例は多い。
なお、軍歴のない民間のインストラクターが兵士に教育する場合もある(マチャが覚えたのは軍人ではなくこちら)。
そうした場合のインストラクターは、特定の武術、格闘技の指導者であり、自分が習得しているナイフ格闘、徒手格闘を兵士向けにアレンジして教える。
「うおぉぉぉッ!」
ダークレートは手を伸ばすのではなく、身体全体でタックルするようにナイフを握ってぶつかっていく。
彼女の叫ぶと、後ろで見ていた小熊のカカオも大きく鳴いていた。




