#178
バニラに向かって叫ぶダークレートの後ろには、赤毛の少女――ストロベリーと小熊のカカオもいた。
レカースイラーは振り返って二人と一匹のほうへと歩み出す。
「お前たちも妙なものを飲んでいるのか? そっちの黒髪には刺青のような模様は出てないようだが」
ダークレートは向かって来るレカースイラーに対して、握っていたサバイバルナイフを構える。
彼女の隣にいたストロベリーは笑みを浮かべながら言う。
「この白髪のオッサンがレカースイラーか。バニラもダサいね。こんなオッサンにやられちゃうなんてさ」
「いいから、二人で行くよ、ストロベリーッ!」
「はいは~い。ま、あたしらでかかればラクショーでしょ」
二人は向かって来ていたレカースイラーへと飛び掛かった。
バニラはそんな彼女たちを見て声を張り上げる。
「やめろッ! そいつにオレたちの技は通じないッ!」
だがバニラの叫びも空しく、ダークレートもストロベリーもいとも簡単に制される。
レカースイラーはまずダークレートのナイフを避け、彼女の手をひねりながら掌底突き。
怯んだダークレートを蹴り飛ばし、その勢いで、飛び込んできていたストロベリーの顎を掴んで床に叩きつけた。
それを後ろから見ていたカカオの鳴き声が屋上に響き渡る。
「フン、動きはまあまあだと言っておこう」
倒れながら呻くダークレートとストロベリーに向かって、レカースイラーは言葉を吐きかける。
そしてレカースイラーは彼女たちから離れ、屋上にあった玉座のへと腰を下ろす。
「そのままでいい。お前たちに話がある」
涼しい顔でそう言った敵のボスに、バニラ、ダークレート、ストロベリーが立ち上がって彼のほうを見る。
「話だって? 一体になんのつもり?」
ダークレートが訊き返すと、レカースイラーは襲撃者に対する態度とは思えぬ口調で話を始めた。
スパイシー·インクの社員となって、自分のもとへ来ないかと。
「なに言ってんだ、お前……?」
バニラが両目を見開いて声を発した。
彼は信じられなかったのだ。
今すぐにでも始末できる自分たちに向かって、部下になるように声を掛けてくるレカースイラーの態度に。
それはダークレートも同じで、彼女は言葉を失い、ただ玉座に帝王のように座るレカースイラーを見ているだけだった。
「反応はいつも一緒だな。誰でも必ずそう言う」
レカースイラーはバニラたちの反応を見て肩を揺らす。
そんな彼の態度を見て、ストロベリーが両手を大きく開きながら声を掛ける。
「へー、そうなんだ。もうちょっと詳しく聞かせてよ、アンタの話」
「ちょっとストロベリーッ!? アンタまでなにを言ってんのッ!?」
好意的に言うストロベリーにダークレートは怒鳴り出した。
だがストロベリーに気にする様子はなく、反対に彼女に向かって言う。
「いいじゃんいいじゃん。話くらい聞いてやろうよ」
「アンタねぇッ! あんなヤツの話を信じるつもりッ!?」
言い争いを始めた少女二人を見て、バニラが止めに入る。
「おい、こんなときに揉めるなよ!」
「あん? あたしは別にそんなつもりないって、ダークレートが突っかかってくるからさ」
「アンタが変なこと言い出したからでしょッ!」
目の前で揉め始める三人を見て、レカースイラーが口を開く。




