#174
一瞬でスパイシー·インクの幹部――。
ウィングとボボティ二人を倒したバニラだったが。
そのせいでレカースイラーがどこにいるのかわからず、最上階を探し回ることになった。
だがフロア中にある部屋に一つ一つ虱潰ししても、人っ子一人いない。
「なんだよ、どこにもいないじゃん。あいつらやっちゃのは失敗だったか……」
誰もいないフロアを歩きまわりながら、バニラの独り言が増えていく。
「あとでマチャとダークレートに言ったら怒られそうだなぁ。何やってんだお前はとか言って……」
そして、フロアにあった最後の部屋の扉を開けたが、やはり誰もいない。
「ストロベリーには、バカじゃないのってアンタ、笑われそうだ……。ラメルは気にするなって言ってくれそう……。もう……死んじゃったけど……」
意外と広いなと思いながら、バニラは廊下をゾンビのようにノロノロと歩く。
「エンチラーダは……なんて言うかなぁ……。でも、あいつは急にいなくなっちゃったから会えないか……」
適当に廊下を進んでいくと階段が目に入った。
それは下へと向かうものではなく、最上階をの上――屋上へと繋がるものだった。
「ジェラートさんは……きっと褒めてくれるんだろうなぁ……。二人同時に倒すなんて凄いねって……」
他に行く場所がないと思ったバニラは、独り言をぼやきながら階段を上がっていく。
一段一段コツンコツンと音を立てながら足を上げて歩く。
そして、扉を開けて屋上へと出た。
そこはまるで和風の庭園のようになっており、小さいながらも池と、その上にある橋――。
さらに仏像や武士が身に付けるような甲冑が飾られていた。
レカースイラーの趣味なのか。
バニラがその光景を見て思わず引いていると、そのインテリアの中心に立っている男の姿に気が付く。
「全身に刺青のような模様……。お前が話に聞いていた奴だな」
バニラと同じ白髪で、この和風テイストの屋上に違和感なく溶け込んでいる和風姿の男――レカースイラーが彼に声を掛けてきた。
この男が標的だと、バニラにはすぐにわかった。
これまで見てきたどんな大人よりも、明らかに佇まいが違うことを、彼は一目見ただけで理解できた。
「お前がレカースイラーか。やっぱ三下とは違うね。なんか、オーラが凄いや」
だが、バニラはレカースイラーを怖いと思わなかった。
今までにない威圧感を覚えながらも、何故だかこの男からは恐怖を感じない。
(なんでだろう……? こいつとは初めて会うのに……。顔すら知らなかったのに……)
バニラはそんなことを考えながら、むしろ懐かしさを覚えるような、そんな不思議な感覚に襲われていた。




